6 / 204
5話
蔵之介は立ち上がり、部屋を出ようとすると長身の黒服の男にドアをふさがれた。
所長は立ち上がり蔵之介に歩み寄る。
「逃げるなんてもうできないんだよ。今夜生贄を出さないといけないんだ。君は捨てられたんだよ。先ほどの母親の姿を見ただろ?あの封筒には2000万円の小切手が入っている。今までの君の養育費と今回のことの口止め料だ。毎回選別にお金がかかるが、今回は相手がよくてあっさりと決まったから普段より高めだ。その分ご両親も喜んでたよ。
いいか?君は売られたんだ。捨てられたんだよ」
蔵之介の心に鋭い言葉が刺さる。
所長は顔をこれでもかと大げさな身振り手振りで話し、顔を寄せ、蔵之介の心を言葉でえぐった。
わずかの希望が消え、
蔵之介は絶望感でその場に身を崩した。
母親に捨てられた?売られた?
期待されてないのは分かっていた。
期待に応えられないのも分かっていた。
けど、せめて生きることくらいは許されてると思っていた。
その希望が絶たれた。
蜘蛛の糸がぷつんと切れると、巣が絡むと元には戻せない。もう落ちるしかない。立ち上がることも出来ずうなだれていると
「連れて行きなさい。今回も先方から服が届いている。向こうについたらそれを着させて行かせるんだ」
と所長の声が聞こえる。隣でしゃべっている声なのにすごく遠く聞こえる。
くぐもった声が止まると。体を無理やり持ち上げられ、地下駐車場にある車に担ぎ込まれた。
窓から外をみようとするが、外は見えない。多分外からも中は見えない。
どこに連れていかれるのかも分からない。
しかし、蔵之介にはどうでもいいことだった。
捨てられた、売られた、生贄にされる。
残された現実をかみしめた。
涙がうっすら一筋流れた。
何もかもがなくなった。
着いたのは、森の奥深く、自力で戻るのはかなりこんなんだろう。服は全て脱がされ、見慣れない薄手の白い衣を羽織らされた。
それ以外は身に着けてはいけない。靴も、下着も全て着ることは止められた。思いのほか衣はしっかりしていて、秋風の肌寒さを感じない。
「ここから先に進むんだ。自分の足でだ」
先ほどのドアをふさいできた長身の男が言った。示す方向には鳥居が並んでいた。ここは蜘蛛の塚よりも人が避けている場所。
来るのも買えるのも困難な場所だが、興味本位で来る人もまれにいる。しかし、子供が行けば帰ってこない。帰ってきてもおかしなことを言い出す。記憶がなくなる。さまざまな事が言われ周辺の人は誰も近付くことは無かった。
ともだちにシェアしよう!