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9話 白い髪の蜘蛛
時間がたち、緊張がほぐれてくるとお腹がすいてくる。蜘蛛の世界の食事って人間と同じなのかな?と頭をよぎった。普通の蜘蛛が食べるのは虫だけど、蔵之介はそんなものは食べれない。囚われて生活したら何を食べて生きていけばいいんだろう?でも、蜘蛛が獲物を勝ち取ったらそれは捕食対象だ。やはり食べられてしまうのだろうか?
そんな想像をしていると、再び蜘蛛の糸が飛んできて、蔵之介をとらえていた網が切られた。
いきなりの事で受け身を取れず背中から地面に落ちた。
「いっ…けほけほ!」
背中を強く打ち、声を出せずむせた。起き上がると後ろから手を脇に回され体を持ち上げられた。
「うわぁ!」
そのまま抱きかかえ上げられ、木の上へ運ばれる。
「お、落ちる!」
蔵之介は目を閉じ、思わず体を持ち上げてくる相手の肩にしがみついた。
「信じて」
透き通ったような声。声の主を見ると先ほどの白い髪の蜘蛛。長い髪に白い服。先ほどは目の錯角かと思ったが、やはりその姿は暗闇の中でも輝いて見えた。
「綺麗……」
蔵之介はそうつぶやくと、白い髪の蜘蛛はほほ笑んだ。
木の上まで運ばれたが蔵之介は白い髪の蜘蛛から目が離せず、見つめあった。
「ありがとう」
白い髪の蜘蛛はそういって、蔵之介は唇を奪われる。
これはキス?
突然の事で抵抗が出来なかった。
「んっ!?」
蔵之介は驚くが、白い髪の蜘蛛は気にせず、すぐさま居た木を蹴りその場を後にする。同時に唇が離れ、別の木に飛び移り振り返った。
「戦ってる最中にいちゃつくなんて、ずいぶん余裕だな」
追ってきた相手が伸ばした糸が、先ほどまで居た枝に絡みついた。その糸の主はバードイート。先ほどの戦いを見ていて分かったが、この2人は強い。バードイートは物理的な力で、白い髪の蜘蛛は何か別の力。
「戦ってる最中に生贄を傷つけようとする君に言われたくはないね」
肩にかかる白い髪を後ろへと手で流し、蔵之介を背中側へ回した。
蔵之介は足元を見て、とっさに白い衣にしがみつく。
「あの、ここ、高い……」
蔵之介が言うが、白い髪の男は聞いているのかいないのかバードイートと対峙している。
蔵之介に見向きもしない。下を見ないようにし、強く男の服を掴む。落ちたら確実に死ぬ。
高いところは苦手で、足が竦みそうになるが必死に堪えた。
バードイートは歯を見せ厭らしく笑う。
向かってくるバードイートは巨体。それも人の形をしていて身長は2メートルを優に超えている。
その巨体は軽々と木を足蹴に飛び、二人の木の元へ跳んで来る。
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