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18話

「そうだ。だが、僕たちは独自の進化を遂げ、移精針を使うものはほとんどいない。だから部屋にスペルマウェブを作るということは“お前を犯す”ということを意味している。誰かが蔵之介を狙っているということだ。」 ビアンカの手は怒りで震え強く握りしめられていたが、それを緩めた。 「だいぶ前からここは生贄が入る部屋だと決めていたんだ。昨日、日中に快適に過ごせる環境か最終確認をした。その時には無かったものだ」 ビアンカは困ったように眉を寄せた。怒りとも取れるその表情に蔵之介はドキドキしていた。母を怒らせたくなかった蔵之介には怒りは恐怖そのものだった。 「そんなに怒らなくても……」 蔵之介が言うと、ビアンカは驚いた様に蔵之介に目を向けた。 「怒るに決まっているだろう!君が狙われてるんだ。君がどれだけ尊い存在か分かっていないのか?蔵之介が酷い目にあうなんて、そんな事を許すわけにはいかない。」 ビアンカはそう言って蔵之介の前に跪いた。蔵之介の膝に手を添え、そこにおでこを載せる。ビアンカの怒りが震えとして伝わってきた。 蔵之介にはまだわからない、ここのルールがあり、危険があり、それから守ろうとしてくれてるんだ。そう思い、蔵之介はビアンカの肩に手を置き口を開いた。 「心配してくれてありがとうございます。でも誰かに、狙われてるって?なぜ僕が狙われるんですか?」 「それはまだ言えない。もう少し大人の生贄が来ると思っていたんだが……、君は若い」 ビアンカは顔を上げ、蔵之介の腰に手を回した。まるで大切なものを包むかのようなその手に腰が敏感に反応した。初めての感覚に蔵之介は戸惑った。膝の前で座り見上げてくるビアンカの姿に、ドキッとして蔵之介は目をそらす。 「君は人間の中でも性成熟していないだろう?」 確かに成人はしていない、それに性も出したことはなかった。 蔵之介は中学二年、歳にして14歳。なのにまだ出せてないというのが恥ずかしく、友人にはもう出たと偽り告げていた。ネットで調べるとストレスから出にくいこともあるとあった。多分そのせいだろうと自分に言い聞かせ、嘘でしのいできた。 ここに来てすぐにそんなトラウマをすぐ掘り起こされるとは思わなかった。死を覚悟したとはいえ、恥ずかしくなり、両手で顔を伏せた。 「蔵之介、大丈夫か?気分が悪くなったなら部屋を変えよう」 ビアンカは蔵之介の肩を撫で、首元に手を添えた。 「ち、違います。大丈夫です」 蔵之介は片手でビアンカの服の袖をつまんだ。 「その、恥ずかしいだけです。こういう事、話すのは苦手で」

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