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25話
「無事か?怪我はないか?」
「無い……」
しかし、ビアンカは安心せず困った様な顔をする。
それもそのはず、蔵之介の目から涙がぽろぽろこぼれていたからだ。
「なんで……」
蔵之介はそれ以上言えず腕で顔を覆った。
「蔵之介、怖い思いをさせたな。部屋に戻ろう」
ビアンカは蔵之介を抱きかかえ、空を飛んだ。
「だからなんで飛ぶの!?」
蔵之介は慌ててビアンカの首に抱きついた。
ビアンカは屋根の上に飛び乗ると一度止まった。
「高いところが怖いのか?」
「怖いって言った!」
蔵之介は空腹と恐怖から苛立って言い放つ。
「いつだ?」
「森の中で!」
「そんな事言ってなかっただろう。君の言ったことなら一言一句覚えている」「もう!分かったから早く安全な場所に下して!!」
蔵之介は半ば八つ当たり気味に言うと、ビアンカは蔵之介を抱きかかえ、部屋の前の廊下に下した。
蔵之介は、ビアンカから離れ部屋のドアを開ける。
「蔵之介、何があったんだ?」
ビアンカは蔵之介の後を追い、部屋に入った。
「家蜘蛛がいたんだ、部屋の中に。だから外に出そうかと思って」
「ドアを開けたのか?」
「うん」
ビアンカは蔵之介の腕を掴み引く。
「な、なに?」
いきなりの事に蔵之介は驚き、ビアンカを見上げると怒っているようだった。
「蜘蛛に触れたのか?」
「うん、外に出すのに手に乗せたけど」
蔵之介が言うと、ビアンカは腕を掴んだまま、反対の手で蔵之介の背中に手を回し歩き出した。蔵之介は連れられ洗面台の前に立たされた。
「なにするの?」
「手を洗うんだ」
とビアンカは蔵之介の背後に周り、蔵之介の肩の上から手を伸ばし水を出した。
ビアンカは水の温度を確認して、蔵之介の両手を掴んで水の中に晒した。ビアンカは石鹸を取って泡立てる。
「手なら自分で洗えるよ」
「駄目だ、僕が洗う」
ビアンカは手元で丹念に泡を立てて蔵之介の右手を取り、両手で包むように洗いだした。蔵之介はくすぐったさに手を引きそうになるが、ビアンカが後ろにいて、下がることもできない。手を手の甲と手のひらに泡の滑る感覚とビアンカの手のひらの感覚が伝わってくる。
「び、ビアンカやっぱり自分で洗うから」
「だめだ、蜘蛛に触れるということは相手の全身に触れたも同然のことだよ。その意味が分かるか?」
蔵之介は意味を理解しハッとしてビアンカの顔へ振り返る。
「そんな、ことは無いんじゃないかな……?」
「蔵之介は僕以外の体に気安く触れてはいけない」
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