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28話

蔵之介は部屋に戻ると、ゼノスが待っていた。 「蔵之介様」 ゼノスが駆け寄り蔵之介の側に立つとすぐに跪いた。 「蔵之介様、申し訳ありません。私が側にいなかったばかりに……」 「うん……大丈夫」 蔵之介はぼーっとしたまま返事をした。 最後にされたキスは少し怖かった。逃げたから怒らせてしまったのかもしれない。 怒らせる恐怖が蔵之介の心をえぐった。 「蔵之介様?」 ゼノスは立ち上がり蔵之介の頬に手を触れる。 ピーと話していたビアンカは異変に気付き蔵之介を見た。 蔵之介の頬に涙が一筋こぼれていた。 蔵之介の心音から察し、ビアンカは目をそらした。最後のキスは乱暴すぎた。ビアンカにはその自覚があった。泣かせたのは自分だ。 その苛立ちにビアンカは、拳を握り深く呼吸をした。 ピーはその様子を見て、ゼノスに声をかける。 「報告は終わりました。我々は残りの片付けをします。蔵之介様の事をよろしくお願いします」 「はい」 ピーはビアンカを連れて蔵之介の部屋を出ていった。 「ビアンカ王」 ピーのその言葉とともに、ビアンカは横にあった手すりに拳を勢いよく落とした。すると大理石で造形された手すりは砕け散った。 砕けた石は下へ落下しドスンと音を立て、細かな石はパラパラと音を立てた。 ピーは黙って見守り、しばらくの沈黙後 「すまない、直しておいてくれ」 「はい」 ピーは頷き、ビアンカはその場を後にした。 蔵之介が連れ去られそうになる前。 「これは困ったな。食事がそんなに違うとは思わなかった」 ビアンカは自室でソファに座り、ピーとゼノスを前に落胆していた。 「申し訳ありません。人間が食べているものはお調べしたのですが、ここまで虫を食すのに抵抗があるとは思いませんでした。前回の生贄は我々と同じ食事を食べていたと記載があり、平気なものなのかと思ってしまいました」 ゼノスは頭を下げる。 「しかし、人間が嫌うものを食事に出すというのはどうなんだ?」 ビアンカが言ってゼノスはここまで堪えていた涙をこぼした。 「ごめんなさい」 「ビアンカ王、ゼノスはまだ子供なんです。私たちも戦いや他の準備もあり、ゼノスに任せきりでしたし。過ぎたことを言っても仕方ありません」 ビアンカは頷き唇を指で撫でた。 「そうだな、すまない。とはいっても、僕たちの主食は虫だ。それが食べられないとなると食事の用意は簡単なものではない。我々の食べるもので何か共通してるものはないのか?」 「ネズミか、小動物、鳥なら狩れる者もいますが」

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