30 / 204
28話
蔵之介は部屋に戻ると、ゼノスが待っていた。
「蔵之介様」
ゼノスが駆け寄り蔵之介の側に立つとすぐに跪いた。
「蔵之介様、申し訳ありません。私が側にいなかったばかりに……」
「うん……大丈夫」
蔵之介はぼーっとしたまま返事をした。
最後にされたキスは少し怖かった。逃げたから怒らせてしまったのかもしれない。
怒らせる恐怖が蔵之介の心をえぐった。
「蔵之介様?」
ゼノスは立ち上がり蔵之介の頬に手を触れる。
ピーと話していたビアンカは異変に気付き蔵之介を見た。
蔵之介の頬に涙が一筋こぼれていた。
蔵之介の心音から察し、ビアンカは目をそらした。最後のキスは乱暴すぎた。ビアンカにはその自覚があった。泣かせたのは自分だ。
その苛立ちにビアンカは、拳を握り深く呼吸をした。
ピーはその様子を見て、ゼノスに声をかける。
「報告は終わりました。我々は残りの片付けをします。蔵之介様の事をよろしくお願いします」
「はい」
ピーはビアンカを連れて蔵之介の部屋を出ていった。
「ビアンカ王」
ピーのその言葉とともに、ビアンカは横にあった手すりに拳を勢いよく落とした。すると大理石で造形された手すりは砕け散った。
砕けた石は下へ落下しドスンと音を立て、細かな石はパラパラと音を立てた。
ピーは黙って見守り、しばらくの沈黙後
「すまない、直しておいてくれ」
「はい」
ピーは頷き、ビアンカはその場を後にした。
蔵之介が連れ去られそうになる前。
「これは困ったな。食事がそんなに違うとは思わなかった」
ビアンカは自室でソファに座り、ピーとゼノスを前に落胆していた。
「申し訳ありません。人間が食べているものはお調べしたのですが、ここまで虫を食すのに抵抗があるとは思いませんでした。前回の生贄は我々と同じ食事を食べていたと記載があり、平気なものなのかと思ってしまいました」
ゼノスは頭を下げる。
「しかし、人間が嫌うものを食事に出すというのはどうなんだ?」
ビアンカが言ってゼノスはここまで堪えていた涙をこぼした。
「ごめんなさい」
「ビアンカ王、ゼノスはまだ子供なんです。私たちも戦いや他の準備もあり、ゼノスに任せきりでしたし。過ぎたことを言っても仕方ありません」
ビアンカは頷き唇を指で撫でた。
「そうだな、すまない。とはいっても、僕たちの主食は虫だ。それが食べられないとなると食事の用意は簡単なものではない。我々の食べるもので何か共通してるものはないのか?」
「ネズミか、小動物、鳥なら狩れる者もいますが」
ともだちにシェアしよう!