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30話

「そうなるかと思います」 ゼノスは蔵之介の行動をそこでやっと理解して頷いた。 「ゼノスは僕を恋人として好きというわけではないという事か?」 「恋は……それはよくわかりません」 ゼノスは困ったように言った。 「あの、でも決して嫌いということはないです!大変お慕いしております」 それを聞いてビアンカはほほ笑んだ。 「いずれ君にもその感情はわかる。誰かを好きになると、自然と意識がそちらに向くものだ」 「はい……」 ゼノスは少し頬を赤くした。 「あと、僕たちの事はまだ話していないな?」 「はい、生贄の役割については話しておりません」 「それでいい。いずれ話さないといけないことだが、今はまだその役割をさせるつもりはないからな。それに思っていたより蔵之介は初心そうだ」 ゼノスが頷きビアンカはほほ笑む。 うぶなゼノスが今の言葉で頷く事に少し笑いそうになるのをほほ笑むだけに堪えた。 しかし次の瞬間、ビアンカは目を見開いた。 急なビアンカの様子の変化に、ゼノスは何かと顔を上げた。 「蔵之介の心音がおかしい」 ビアンカは立ち上がり部屋を飛び出した。 蔵之介の部屋は隣だ。しかし互いの部屋は広いためそれなりの距離がある。 部屋を出て蔵之介の部屋の方を見ると、守護のキーパーと見慣れない蜘蛛が争っているのが目に入る。 その間を蔵之介が何者かに担がれていくのが見えた。 ビアンカは何も言わず飛び出し、辺りに疾風を起こした。ゼノスは急なことに顔を覆い、目を開くと置いて行かれたことに気付く。慌ててもう見えないビアンカの後を追った。 ビアンカは屋根の上に乗ると、迷いなく蔵之介の元へと駆け出した。 まだ蔵之介を担ぐ黒服の男はキーパーに囲まれ屋根の上でもたついていた。 キーパーはビアンカが近付いてくるのを見てその場を散った。ビアンカはいざとなれば仲間見境なく攻撃を仕掛ける。それ故ビアンカ自身も巻き込まれたくなかったら避けるよう指示していた。 それを見て、チャンスと思った黒服の男は屋根から飛び出し白の城壁へと糸を伸ばした。 しかし糸はすぐさまビアンカの飛ばした糸により切られ壁に届くとなく落ちた。 すると黒服の男はあろうことか蔵之介を投げ捨て、自身の安全確保に両手で糸を出し、安全な木の上に飛び降りた。 「蔵之介!!」 ビアンカは叫ぶ。全身から糸を這い出させ、触手の様に操作し蔵之介の落下地点に糸を伸ばし瞬時に巣を構築した。 蔵之介は悲鳴と共にその巣の上に落下し体を跳ねさせそこに収まった。 蔵之介のぐずる声が聞こえ、安心して蔵之介の元に飛び降りた。 巣を軽く揺らした。うつ伏せでぐずる蔵之介の元に歩み寄る。 「蔵之介」 体を起こして手と足の拘束を解いた。そして顔を見ると目がふさがれている事に気付き顔の糸を解き抱き寄せる。 「無事か?怪我はないか?」

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