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36話
蔵之介は首を横に振った。
「俺は親に売られたんだ。帰る場所なんてないよ」
蔵之介は声を震えさせつぶやくように言った。
ゼノスが心配してずっとそばにいて、背中をさすってくれていた。
お昼の時間が過ぎ、ゼノスが食事を持ってきたが、唯一食べられたのが、衣揚げ。
何も中には入っていない、粉物を油で揚げたもの。いわゆる天かす。
パンは作れないのかと聞いたが、作り方を知らない様だった。さらに言うと粉物も簡単に手に入るものでは無く、貴重な為それだけで調理するという事が無いらしい。
それでもお腹はどうにか一時の空腹は満たせた。しかし、それもすぐに消化され空腹感は止むことは無かった。
気晴らしにと城の中を散策したかったが、スペルマウェブの件もまだ解決していないから部屋にいるようにと言われた。
窓から見える景色だけしか今のところ分からない。
「ここに住む人って皆人の形をした蜘蛛なの?」
蔵之介はゼノスに聞くと、ゼノスは頷いた。
「はい、最初は人のサイズまで進化した蜘蛛が七体居ました。その七体はそれぞれ種類が違い、我々の住みかを収めていました。それが人の女性と交わり、人の形をする個体が生まれるようになりました。人の形の個体が生まれてすぐは、弱体と言われ低い地位に居ましたが、脳の作りが違い知識の差で大型の蜘蛛の地位が落ち、人型が優位になったんです。
それからは、人型同士で交わることが増え、本来の蜘蛛の巣型の個体はここでは減っていきました。元の体を捨てられずここを去った者もいると言われています。それが人間の世界にいる蜘蛛です。」
「そうなんだ、でも昨日部屋に出た蜘蛛は普通の蜘蛛だったよ」
「はい、もちろん普通の蜘蛛になることも可能です。しかし、この姿の方が強く、何かあった時ここの掟上不利になることがあるんです。例えば、昨日の様に不法侵入した場合、蜘蛛の姿で見つかれば悪質と判断されそれだけ罰が重くなります。
そうです、蔵之介様!」
ゼノスは突然声を上げた。
「なに?」
「ここで蜘蛛が部屋の中に入るのは不法侵入でしかありません。人間の世界での過ごし方を改めてください。相手が人間だと思えば異常だということは想像つきませんか?」
蔵之介は少し考えてからうなずいた。
「確かにそうかも」
「私もお伝えし損ねておりました。申し訳ありません。ここでは、自分の陣地以外に、つまり自分の家以外に許可なく蜘蛛の糸を張ることは禁止されています。蔵之介様の部屋の中には、今の所私と、ビアンカ様以外糸を張ることは許されておりません。
蔵之介様を守るための行為は例外に当たりますが、かなり慎重に調べられます。それがピーさんであっても」
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