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42話
「一緒にいる間に何度か脱皮して性成熟したはずだけど、青いままだったからメスだと思うよ……。それよりさ、なんで森の中にいたのかな……飼ってたのに捨てられたのかな?でも、僕も捨てちゃったから、変わらないんだけどさ……」
蔵之介の目から涙がこぼれ、それをビアンカの服でぬぐった。
「蔵之介様」
ゼノスが止めようとするがビアンカは手を上げ制した。
「蔵之介は本当に優しな」
ビアンカは蔵之介のおでこにキスをして、蔵之介を横にさせ蔵之介の頭を膝に乗せた。蔵之介はすやすやと寝息を立て眠り始めた。
次の日も蔵之介用の食事が届いていた。
夜中にも運ばれてくるのをキーパーが見たらしい。
「しかし、奇妙な食事だな」
食事の席に弁当を運び、蔵之介はビアンカと食事をしていた。
ビアンカは変わらず虫を食べている。しかし蔵之介に気を使い、食しているものは虫の形をしていなかった。調理法を変えたらしい。これなら蔵之介も一緒に食べるのに抵抗は無いとホッとした。
「少し食べてみる?」
蔵之介が聞くが、ビアンカは少し抵抗がある用で眉を寄せた。
「興味はあるが、お腹をこわしては困るな。ピー、少し食べてみてくれ」
「分かりました」
ピーは切り分けられたハンバーグを一切れフォークにさし口に運ぶ。
何度か噛み飲み込んだ。
「どうだ?」
ビアンカが聞くと、ピーは神妙な面持ちでビアンカを見た。
「ビアンカ様、これは危険です。絶対に食べてはいけません。絶対にです」
ピーは絶対を強調して、念を押し言う。そんなに美味しくなかったのだろうかと蔵之介は少しがっかりした。それに危険って、蜘蛛にとっては毒なのだろうか?
しかし、ビアンカは
「それはおいしいって事だな?」
と言い返した。
「はい、入手困難なこの食べ物を二人分準備するだなんて不可能ですから」
ピーは真剣な面持ちで言う。蔵之介は驚いて、ビアンカとピーを交互に見た。
ビアンカはため息をつく。
「そこまで言われたらどんな味か気になるだろう」
と立ち上がる。
「いけません。虫を食べてください。通常通りこれを食べてくださればいいんです。そちらの方が美味しいですから」
とピーはビアンカの元へ行き、肩を掴み無理やり座らせる。
「なぜこんな時だけ強引なんだ」
「私を信じて、本当に食べてはいけません!」
「ならもっと上手く誤魔化せよ」
そんな漫才のような口論が数分繰り返され、蔵之介は苦笑した。
「あの、そこまで食べたいなら一口だけでも」
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