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46話
次の日の朝、食事を終えると蔵之介は王の間に連れ出された。即位式の時にも来た王広間。その時は人が沢山いたが、今は他に誰もいないそこはとても広く感じた。
ビアンカに王座の後ろのカーテンの中へと促され、蔵之介とゼノスはカーテンの奥へと身を隠した。
「なんで呼ばれたんだろう?」
「わかりません。しかし、王の間に呼ばれるのはよほどの事なのではないかと」
ゼノスが小声で言って、周りを見回した。
「蔵之介様はこちらへ」
椅子をゼノスが運び、蔵之介はそこに座った。ゼノスはその斜め後ろに立った。
カーテンは少し透けていて、王の間の方に誰かがいるという事くらいは分かる。
そこに一人が通された。その横にキーパーがいるのが背丈と恰好から推測できた。
通された男は、手足には糸で錠をされて、おとなしく連れられていた。捕まっているというのに、余裕を感じる面持ちだ。
「君がコバルトブルーか」
ビアンカは拘束される青年を見てほほ笑んだ。
コバルトブルー、それは先日話していた蜘蛛の事なのだろうか?と蔵之介は身を乗り出し立ち上がる。
「蔵之介様、お座りください」
ゼノスが周りには聞こえない程度の小声でささやく。
蔵之介はそれを聞くと、焦る気持ちを抑え頷き椅子に座った。
キーパーはコバルトブルーの背を押し、二歩前へと出した。
「話によると、蔵之介様の飼育していた海で間違いありません」
「違うって言ってんだろ」
海はあからさまに興味なさげに言う。
「違うといっているが?」
ビアンカがキーパーを見て問う。
「昨夜話した際、こんな発言をしていらっしゃいました」
キーパーは録音機をつけると海の言葉が再生された。
“俺はあいつに捨てられたんだ”
はっきりとそこに捕らえられた男の声で録音されていた。
海は目を見開きキーパーの持つそれを拘束された手で奪おうとしたが、軽くかわされる。
「お前、録音するとか卑怯だろ!それにそれ人間界の物じゃないか!」
「これはビアンカ王に許可を頂いて降ります。それに卑怯、でしたらあなたもでしょう?嘘をついて何の得になるんですか?蔵之介様に会えるというのに」
「会ったってしょうがないだろ、俺は捨てられたんだから」
海はうつむき、歯を食いしばる。
「おかしな話だな。そこまでどうでもいい相手になぜ食事を運んだんだ?」
ビアンカは椅子の手すりに肘を置き、体重をあづけた。
「どうだっていいだろ、そんな事。それより食事がまた必要なんだろう?俺を捉えてたら今夜にはまた食事が尽きるだろう。良いのか?」
海は顔を上げビアンカを睨みつけた。
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