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47話
「そうだな、理由は今のどうでもいい。毒も盛られず、蔵之介の食べられる食事を運んでくれたんだ。それにはとても感謝している。だから君を雇いたいといったのに断ったと言うじゃないか。どんな理由があって断ったんだ?」
ビアンカが聞くと、海はためらい唇を震わせたが、言葉を絞り出した。
「蔵之介に合わせる顔がないんだよ。それだけだ。
俺は蔵之介を守りたくて、あいつに手を上げた奴に噛みついた。でも、あいつはそいつを助けて、俺は捨てられたんだよ。でも悪いことをしたとは思っていない。でももうあいつは俺の事なんて必要となんてしてないんだ。」
「必要とされてないなら放っておけばいい。なのに食事を運び、蔵之介を助けようとするのは人間界で助けられた恩か?」
「違うな、それもあるが俺が助けたいから助けてるに過ぎない」
「それはなぜだ?」
ビアンカは少しイラついてるように見えた。
「何だっていいだろ」
海が答え渋った顔をする。頬は少し赤い。
ビアンカは悩むように頭に手をやり、目を閉じた。
「好きだとでもいうのか?」
ビアンカが言って、広間が静寂に包まれた。
海はその静寂を断つように鼻で笑た。
「それが心配なのか。俺が蔵之介に色目を使うかどうか」
「……」
ビアンカは黙って海を見据えた。
「それなら心配ない、……とは言わない。」
「どういう意味だ?」
キーパーがナイフを海の首元にあてた。
ビアンカは海を睨み眉を寄せた。
「おい、大げさじゃないか?」
海は何もしないといったそぶりで手を頭上に上げる。
ピーが一歩前に出た。
「王座決闘の日、蔵之介の部屋にスペルマウェブが張られました。それを張ったのは貴方では?」
「スペルマウェブ!?誰が張ったんだそんな物!?っ!!?」
海は思わず前に出ようとするが、キーパーに首根っこ捕まれ床に押さえつけられた。
「黙って質問に答えろ」
キーパーが問うと、海はおとなしく答えた。
「俺じゃない、俺は常に蔵之介について回ってたからな。その日は、学校が終わってからしばらく神社にいた。そうだ、絵を描いてたよ。コバルトブルーの蜘蛛の絵」
「……っ!!!??」
叫びそうな蔵之介の口をゼノスが手で抑えた。確かにその日は午後は早退して、神社にいた。誰にも見せるつもりのなかった絵を見られていたことに、発狂しそうだった。
海が答えると再び広間が静寂に包まれた。ピーはビアンカの様子が気になりちらっと見るが、ビアンカは普段と変わらない表情でそこにいた。
しかし、ぶら下がった唯一の糸が張り詰め今にも切れそうな、そんな緊張感が一体に漂った。
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