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49話

 震える蔵之介の頭を撫でる。 「何か聞こえたか?」  ビアンカが聞くと、蔵之介はビアンカの胸元におでこを寄せた。 「分かんない。耳元でぴちゃぴちゃ言ってて、海の叫ぶ声が聞こえたけど」 「ならよかった」  やっと息が吐きだせ、蔵之介ははあはあと息を切らしていた。  ビアンカは体を離し、蔵之介の肩を支え、椅子の背もたれに寄せた。  その肩をゼノスが再び支えると、ビアンカは頷き蔵之介の頬にキスをしてカーテンの向こう側へ向かった。  カーテン越しにも向こうから、海の声であろう息遣いが聞こえた。 「っくそ、絶対吊るす……」  海は頬を赤く染め、力なくくたりとそこに倒れていた。衣服はピーの手により既に整えられている。  ピーはキーパーに採取したものを渡した。 「糸の採取もしましたので、すぐに調査いたします」 「頼む」  ビアンカが言って海に歩み寄る。 「全く、余計な手間をかけさせるな」  ビアンカはそう小さくつぶやいた。 「どうだ?契約する気になったか?僕の助手は上手いだろ?」 「すっごい上手いな。遅漏の俺が一瞬だった」 「早漏の間違いじゃないのか?」  海はビアンカを睨みつけた。すると視界の向こうでカーテンが揺れた。  見ると、顔を赤くした蔵之介が現れる。 「なっ、カーテンの向こうに行くなんておかしいと思ったよ!蔵之介に聞かせるなんて何してんだよ!?」 「大丈夫だ、蔵之介は何も聞いてない。そうだな、蔵之介?」 「う、うん……」  蔵之介は耳を攻められた感覚と恥ずかしさで赤い顔をそらした。 「絶対聞いてただろ!?」  海は声を上げる。 「静かにしてください。聞いてないと言っているでしょう。もう一回されたいんですか?」  ピーに言われ、海は静かになった。 「調査結果次第では即死刑は覚悟しておくことだ」 ビアンカが言って、蔵之介ははっとしてカーテンから飛び出した。 「そ、それは多分違うと思う!」  ビアンカに言って駆け寄った。 「海ならそんな事しないよ」  蔵之介はビアンカから海に目を移す。分かってはいたが人の形をしてる。以前会った時の姿とは全く違った。  見目では分からないが、先ほどの話の内容から本人だろうと察しはついた。 なんといっていいか迷い、ビアンカの服をぎゅっと掴む。 「蔵之介、海を信じたいか?」  蔵之介はビアンカを見上げると、ビアンカの左手が右頬に触れた。 「うん、だって、海は誤って蓋を開けてても外に出ようとしなかったし、毒も調節できてた。悪意は持ってないと思う。それに、ごはんも運んできてくれたし、理由は言えないのかも知れないけど、敵にはならないんじゃないかな……」  蔵之介はだんだん弱気になって、声が小さくなっていった。

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