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55話 蜘蛛の性事情
「この世界の蜘蛛は全てオスなんだ」
「ちょっとダメですってば!」
ゼノスが止めに入るが話を続ける。
「それぞれが独自の進化を遂げ、俺の家系では体の色が変わりにくくなった。 体に雌の特性も持ち合わせたからだ」
ゼノスは海が話をしている間も、ずっと海を引っ張って居た。蔵之介は止めようか迷ったが、話の方が気になり海に聞く。
「じゃあ、この場所に性別がないってこと?」
「そう、だから妊娠にも相手は必要ないんだ。卵のうを自分で作り、産卵して射精する事で子供が生まれる。それを言えば全部雌とも言える。子作りは一人で全部できるんだよ」
蔵之介はぽかんとしていた。一人で卵を生んで子供を作る?
「すごいね、それってどういう仕組みなの?」
「気になるか?それなら身を持って経験してみるか?」
海は蔵之介の顎を指で持ち上げ顔を近付けた。
ゼノスは先ほどから海の服を引っ張り、顔を赤くしていたが自分の力ではどうすることもできないと悟り、「うわぁぁ!」と泣きながら部屋を飛び出した。
「あいつはなんで泣いてるんだ?」
「うぶなんだよ」
蔵之介が言うと海は笑った。
「うぶって、蔵之介がいうのかよ」
「それ、バカにしてない?」
蔵之介はムッとして海を見る。
「可愛いとは思ってる」
海が言うと、蔵之介は海の袖を引っ張った。
「なんでさっき嘘ついたの?俺を知らないって、俺が嫌だった?」
蔵之介は不安そうに問う。
海は蔵之介を見て、顔をそらした。
「捨てられたからだよ。寂しかったんだ。また捨てられると思ったし。嫌われてないって分かってるのに、離れて。一緒にいたかったから、拗ねてたんだ。
我ながら恥ずかしい事言ってると思うけど。嘘ついた理由はそれだけだよ。
さっき蔵之介がいつでも会えたらうれしいって言ってただろ。すごい嬉しかった」
海は蔵之介を抱き寄せた。
「だから心配すんな」
と海が蔵之介の頭に頬を寄せると、蔵之介は涙をあふれさせた。海が蔵之介の頭を撫でると蔵之介は海の胸に顔を押し付けた。
「なんで泣いてるんだよ!?」
「だって、嫌われてるのかもって思って。逃がしちゃったの後悔してて。でも普通に話してくれるし。
今まで虫と人間で話したことなかったのに、なんか話しやすいし。このまま一緒に居られたら嬉しいのに」
蔵之介が顔を離すと、海は蔵之介の頬に手を触れた。
「お前、それ誘ってるの?」
蔵之介の頭に手を回すが抱き寄せることはしなかった。蔵之介は意味が分かってないのか、返事をしなかった。
「泣いてんなよ。俺が泣かせたみたいだから」
「うん」
蔵之介は海の背に手を回して抱きしめた。
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