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58話

 蔵之介はゆっくり顔を上げ、声が震えそうになるのを堪えた。  すごく緊張して、心音が早まる。きっとこれもビアンカに伝わっている。恥ずかしいけど、会いたい。それが正直な気持ちだった。 「分かりました。今は海と話をしていると思いますので、終わりましたら呼びにまいります」  ピーはそう言うと、ほほ笑み服を翻し部屋を出ていった。  蔵之介はそれを見送りうつむいた。  言えた。堪えてたことを。  蔵之介はそれだけで嬉しくなり両手で顔を覆った。ビアンカに会える。  さっきも会ったのだけど。それを考えると今会いたいなんておかしいんじゃないか?と蔵之介は肩を落とした。変だと思われるかもしれない…… 「蔵之介様?大丈夫ですか?」 「うん、大丈夫」  蔵之介の表情は暗かったが、それでもビアンカに会える喜びが勝り顔を上げた。 「でも驚いた。ビアンカがあんなに俺のこと気にしてたなんて思わなかったから」 「ビアンカ様はいつでも蔵之介様を想っております」 「そうだったんだね、なんだか不思議な感じ」  ビアンカの事を考えると胸が暖かくなる。こんなに想われてるなんて。  顔の熱が冷めないままだったが、気がかりがありゼノスに顔を向けた。 「海は大丈夫かな?ここだと罰とか受けたりするの?」 「はい、何かあれば罰を受けることになります。けど海さんは受けて当然だと思います」  ゼノスは不満げに頬を膨らませて言った。 「そ、そっか」  さっきのゼノスの反応を思い出すと、海をかばいきることも出来なかった。 「でも、安心した。海が僕を嫌いってるんじゃなくて。ビアンカは罰を軽くしてくれるといいけど……」 「あんなデリカシーがなく、ルールも守れないなんて、一度きつくお仕置きを受けたほうが良いと思います!」  ゼノスは腕を組んで先ほどの所業を思い出しているのか怒っている。 「そう、なのかな?」 蔵之介は頬をかく 「でも、蔵之介様は海さん相手ですと性成熟の話も平気そうでしたね」 「そういえば、海相手だと平気だったかも。なんでだろう」 「ビアンカ王相手だと恥ずかしそうにしていらしたのに」  ビアンカと話すのはなんだか恥ずかしい気持ちがある。それは蔵之介にとって初めてキスをした相手であり、抱きしめられ、優しくされ、気遣って貰える相手だから。 「ビアンカとは、性成熟の事だけじゃなくて、他のことも恥ずかしいかもしれない」 「なぜです?」  ゼノスは首を傾げた。 「意識しちゃうからかな?胸が熱くなるっていうか、特別なんだと思う」

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