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60話
ビアンカは淡々と話すが、空気は重い。王座につくだけの事はある。
「ないな。俺は蔵之介を傷つけたくはない」
海はビアンカをまっすぐ見つめて言った。
「なら手を出すのは諦めろ。蔵之介は僕の物だ」
ビアンカの言葉にゾッとして海は頷いた。
先ほど蔵之介の前では避けたいと言っていた話はこのことなのだろう。
きっと蔵之介にこんな姿は見せられない、もしくは見せたくないのだろう。
しかし、これ以上怒らせたくはない海は膝をつき頭を下げた。
しかし、蔵之介を好きな気持ちが劣っているとも思っていない。海は顔を上げ、まっすぐビアンカを見る。まだその表情は硬く、海を見下している。
「王の意志は理解した、でも蔵之介が本気で嫌がるなら相手が王でも俺は全力で止める。それは俺が蔵之介のキーパーだからだ」
海が言うと、ビアンカの表情は穏やかになり頷いた。
「それでいい」
ビアンカはそういうとソファに戻り座り直した。
海は驚き拍子抜けた顔をしていた。ビアンカは何を望んでいるのか分かった気がした。それは蔵之介を守り切ること。もしそれが王相手でも。ビアンカが直接的に手を下すことが無くても、何かに操られた場合でも。それができるのは俺だけで、それが役割だ。
それは蜘蛛の姿で蔵之介の側にいるときから思っていたこと。
「部屋に戻っていい。今後余計なことは蔵之介に話さないことだ」
「分かった」
海は立ち上がり部屋を出た。
それから数週間が過ぎた。
時折ビアンカの仕事に同行し、蔵之介はこの世界での上下関係、挨拶のしかた、立ち回り、礼儀を知った。毎日覚えることだらけで、暇することが無かった。
ビアンカは誰からも慕われているわけではない事、それでも一目は置かれていること、その中で自分を保っていく強さを持つこと、それには少なからず自分の存在が必要なのだという事。
少しずつ慣れていく生活の中で、蔵之介の部屋にあったスペルマウェブの犯人は見つからず。ビアンカ王からできるだけ部屋から出るのを控えるよう言われていた。
それでもずっと引きこもっているのは辛く、蔵之介は城の敷地内をは一日に一度は、ゼノスと海と共に見回っていた。
初日の一件依頼何事も起こらず毎日を過ごせているので蔵之介にはだいぶ心の余裕が出来ていた。侵入者の話も聞くけど、それも蔵之介に手の届かない範囲での所で解決されていった。
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