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69話
胸からは血が滴り落ちて床にぼたぼたと垂れた。
そこにはビアンカの右手が刺さっていた。刺さった右手から巨体の体内に糸を巡らせ体内を解析する。ビアンカは目を細め「なるほど」と小さく言った。
「まだだな、もう少し苦しんでもらおう」
ビアンカはそう言って、巨体を壁へ頬り投げた。
ビアンカは巨体に歩み寄り、巨体を踏みつけた。
「解毒剤か。先に入れて置けばある程度は耐えられる。しかし致死量流し込まれれば治療なし回復することはない」
巨体は呼吸が出来ず声も出せず顎を震わせている。
「争奪戦の時にさっさとやっておくべきだったな。そうすれば苦しませずに済んだ。蔵之介にも、お前にも」
ビアンカは血の付いた手で巨体の手を掴み手首に噛みついた。そこから毒をさらに流し込む。
海はやっとの思いで上半身を起こし、壁に寄り掛かった。目の前の光景を見て体を震わせた。
自分では噛みつけなかった鍛え上げられた皮膚を貫き、一撃も与えられなかった巨体をビアンカは投げ飛ばした。その事実が受け止め切れなかった。
その光景は恐怖そのもの。
それも何度も。肩、腕、太もも、脛。体の隅々まで牙を立て毒を流し込まれていく。巨体は毒を流された個所から震えだし、耐えられないといった様子だった。しかし解毒剤のせいで即死することができない。
それは今まで見たどの光景より恐ろしく、右手を左手に回し自分を守るように抱きしめた。
ビアンカは全身噛み終え、巨体を見下していた。口元と右手は血に濡れ見るに堪えない姿だった。巨体は最後にびくびくと体を大きく震わせ、事切れた。
「お、遅くなり、なりました……」
そこに呑気なゼノスの息切れした声が部屋の中に飛び込んでくる。海が見ると、ドアはいつの間にか破壊されていた。何の音もしなかった。誰にも破れない糸を張ったつもりだった。
海の全身に鳥肌が立った。ビアンカの強さは尋常じゃない。
ゼノスは顔を上げ、部屋の中の光景を見ると「ひっ」と悲鳴を上げた。
「なっ、な、な、一体何が!?」
ビアンカは顔を向けずに、ベッドを指で示す。
ゼノスがベッドへ駆け寄ると、ベッドで顔面糸に包まれる蔵之介に気付き、慌ててベッドに上った。
「蔵之介様!すぐに糸を取り払います」
ゼノスはねばつく糸を自分の糸に絡ませ取り去っていく。
「ビアンカ王!」
次に飛び込んできたのは、ピーだった。状況を見て察し、引き出しからタオルを取り出す。数枚はゼノスに渡し、興奮して息を荒げるビアンカに一枚差し出した。ビアンカは目線を息絶えた男から離さず、タオルを受け取り口元をぬぐい、そして手についた血も綺麗に拭きとった。
ピーは男を確認する。
「もう息はありません。処置をしても蘇生もむりでしょう」
ピーが言うと、ビアンカは巨体から降り息を整える為何度か深呼吸をした。
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