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70話

「っ、うぅ……」  蔵之介の鳴く声が聞こえ、ビアンカは我に返りタオルを投げ捨てベッドへ駆け寄った。  蔵之介は両腕で顔を覆い泣きじゃくっていた。体にはタオルがかけられ、両足を摺り寄せ身を縮ませ震わせている。 「蔵之介。もう大丈夫だ」  ビアンカが顔を寄せ言うと、蔵之介は腕をよけ、涙目でビアンカを見つめ瞳を震わせる。 「っ……びあんかぁ!!」  蔵之介は泣き叫んでビアンカの首に抱きついた。 「すまない、蔵之介。辛い思いをさせた。心音が変わってすぐに来たが間に合わなかった。本当にすまない」  ビアンカは歯を食いしばり、蔵之介を強く抱きしめた。  辛い思いはさせないと決めていたのに。ビアンカは蔵之介の頬に顔を寄せた。  蔵之介はその頬に頬をこすりつける。 「信じてた。来てくれるって信じてた」  蔵之介は声を震わせながら言って、ビアンカを強く抱きしめた。  ビアンカは蔵之介に覆いかぶさり、蔵之介が落ち着くまでビアンカは離れることはせず頭を撫で、優しく声をかけ続けた。  荒れた部屋で、ピーは海へと歩み寄った。 「怪我は?」 「ねーよ」  海は傷だらけでうつむいたまま言った。 「なら救護はいりませんね」  ピーは言って、海の服を引き上半身を脱がせた。 「何っ」  海が驚いていると、上半身にピーの治癒糸が巻かれる。 「勝手にまくな!」 「嫌ならほどいて構いません」  ピーは海が外すそぶりが無いことを確認して、海の服を整えた。それをするほどの元気が海には無かった。ピーは立ち上がり、キーパーの元へ向かった。キーパーには意識がないが、息はある。治癒糸を胸元に貼り気道を確保させた。そして救護を呼ぶ様、外にいたキーパーに指示する。何人かが指示を煽りにきた。皆動揺していたが、ピーの指示は的確で、安心してその通りに動いた。  ゼノスはどうすれば良いのか分からず、抱き合う二人を見ていた。  ビアンカは蔵之介を抱きしめ、蔵之介もビアンカを抱きしめ嗚咽を上げ泣いている。  ピーがゼノスの頭に手をのせる。 「もう大丈夫です」  ゼノスは視界がゆがんいるのに気付き、涙を慌ててぬぐった。

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