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85話
あまりの人の多さに蔵之介は圧倒されるが、海とゼノス、キーパーも間に立ち一定の距離を保ちいろんな人たちと挨拶をかわしていった。
一通り挨拶が終わるころには、2時間ほどが経っていた。蔵之介は疲れ果て、いったん皆から隠れられる場所へ移動した。
「蔵之介様、全ての者の話を最後まで聞く必要は無いんですよ。扇子を広げ終わらせてよかったんです」
「うん、でも、今まで話せてなかったし。皆も話したかったみたいで、嬉しそうに話しかけてくれるから止められなくて」
蔵之介は仰向けになり寝転んだ。
「あんなに好意的に話しかけられること無かったからなんだかうれしくて、つい聞きたくなっちゃったんだよね」
蔵之介は伸びをして、脱力した。
「この後はしばらく扇子広げておいてください」
ゼノスに言われ、蔵之介は身を起こす。
「どうして?」
蔵之介は扇子を開いた。
「王がお待ちです」
ゼノスが言うと、蔵之介は少し黙って「ああ」と納得したような声を出した。
ビアンカは横で早々に挨拶を済ませていた。区切りのいいところで扇子を広げ各所の挨拶を切り上げていた様に思える。ずっと見ていたわけではないけど、ビアンカが対応できる範囲で上手くかわしていた。それに対して蔵之介は一人ひとりに対応していてなかなか終わらなかった。ビアンカも蔵之介が話し終わるのをずっと待っていたのだろう。
蔵之介は立ち上がり
「戻ろう」
と歩き出した。
扇子を広げ席に座ると、本当に声をかけられることがなかった。何人かがちらちら蔵之介を見て話かけたそうにしているのは分かったが、蔵之介は扇子を広げ胸元に寄せていた。
「ビアンカ」
「どうした?」
ビアンカはそっけない態度で返事をした。待たせていたから不機嫌なのだろうか?
「待たせてごめん」
蔵之介が言うとビアンカは蔵之介を横目に見てほほ笑んだ。
蔵之介の頭をそっと撫でる。
「みんな蔵之介と満足するまで話せて喜んでいた。構わないよ」
ビアンカの蔵之介に触れる手は優しい。
「うーん、でも、アダルトになったのを喜ばれるのはなんだか恥かしかった。人間はどちらかというとからかわれるから」
蔵之介が言うとビアンカは口元を扇子で隠した。これは話を止めたいという事なのだろうか?と蔵之介は首を少し傾げた。ビアンカは扇子をすぐにどけた。
「誇りに思っていいことだよ。成長した証だ」
ビアンカに言われ蔵之介は頷いた。
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