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97話
その後も妊娠生活に関する説明が続き。ゼノスが再びページをめくった。
「あと、子供が生まれてくるまでに、蔵之介様にはやっていただかなければならないことがあります。これは大事なことです」
ゼノスはいつになく真剣な面持ちで手帳を蔵之介に見せた。
そこにはびっしり予定が書き込まれてる。
「なにこれ?」
「蔵之介様の教育計画です」
「教育計画?」
今までも文字の事やここでの習慣は覚えてきた。でも自主的なものでここまできっちり予定は立てられず、かなりのんびりした日々を過ごしてきた。そこから考えるとかなりハードなスケジュールが立てられているのが手帳を見ると分かる。
「蔵之介様のと言っても、お腹の中の子供に向けての教育です。子供をお腹に宿した状態で母体へ教育すると生まれた時に子供がその教育をしっかり学んだ状態で出てくるということが分かっています。なのでこれから日々しっかり必要な教育を受けてもらい、蜘蛛の体術と、受け身、糸の操作なども学んでいただきます」
ゼノスは手帳を自分のもとに向け内容を確認する。
「糸の操作って、俺は糸は出せないよ?」
「ええ、そこは私の糸で代用します。時には糸の違いを知るために他の人の物で代用する事もあると思います。できる範囲で、しかしできるだけ多くの糸の操作を覚えていただきます。
そして、これが蔵之介様に一番酷なものなのですが、やっていただかなければならないことがありまして……」
ゼノスは言いづらそうに、手帳で口元を隠した。
「なに?」
ゼノスの指が天井をさした。蔵之介は天井を見る。しかし、それは天井より先を示していた。
「上空から飛び降りていただきます。これは飛行訓練で」
「それは絶対無理!!」
ゼノスが言いかけたのを蔵之介は遮って叫んだ。しかし、ゼノスは話を進める。
「飛行訓練で子供の状態では安全性を確保するためできない事なんです。ですから母体の時に一度体験することで、子供にその体感を教え、大人になりその行為への抵抗を減らす効果が期待できるとのことです。ちなみに私はまだ未体験ですのでどんなものかは存じ上げません……。一般的な教育でもあまりやらない事なんです。でも安全な事は確かです」
「そんな知らないものをやらせないでよ!それに一般的にやらないならやらなくていいじゃん!」
蔵之介は泣きそうな顔で訴える。
「すみません、王と大臣たちの指示です……。それに生まれてくるのは王の子供ですので」
ゼノスはそういって頭を下げた。蔵之介はわなわなと震えながら両手で顔を覆った。ビアンカのために何でもしたいとは思ったけど。
「こんな……こんなはずじゃ……」
蔵之介はがっくりと肩を落とした。
一章完
続きは12/1~投稿予定です。
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