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101話

「やるのかよ」  海はぼやくように小さく言った。 「貰って良いんですか?」  ヴィンター師は頷いて見せた。顔は前を向いたままだったが。  蔵之介はバナナを受け取り、一口食べた。 「おいしい」  考えてみるとここにきて果物を食べてなかったことに気付いた。野菜類は料理で出るが、果物を買い物リストに居れたことがなかった。今の買い物リストも料理人に任せていて蔵之介は関与していため、言わないと不必要なものを海は買ってこない。  もぐもぐと蔵之介はよく噛んでのみ込んだ。 「ミュージックバナナじゃ」  ヴィンター師が言って、後ろに置いてあった三味線を取った。 「師匠がバナナに音楽聞かせてるんだよ。変わってるだろ?そうすると美味しくなるんだってさ」  海が言うと、ヴィンター師は三味線の弦をはじき、なつかしさを感じさせる軽やかで明るい曲を演奏し始めた。  海は立ち上がり、お尻についた砂を払った。靴を脱ぎ縁側から室内に入ると奥からもう一つ三味線を持ってきた。 「蔵之介、持って」 「俺弾き方分かんないよ」 海は蔵之介の後ろに座り体を寄せる。 「右手で撥をもって、左手はここ」  海に言われるがまま三味線を持つと海は蔵之介の左手と右手に手を添えた。海の顔が左側からのぞき込んだ。軽く汗のにおいがして蔵之介はドキッとする。ビアンカ以外とこんなに接近することはほとんどないせいか、蔵之介は変に緊張していた。  ヴィンター師の曲のタイミングに合わせて、海が蔵之介の撥を持つ手を一度動かすと弦をはじいた。  するとヴィンター師の演奏する音と重なり音が響く。 「鳴った」  蔵之介は言って、海を見ると海はほほ笑んだ。 「ここにきて最初に教えて貰ったのはこれだ」 「強くなる為に来たのに?」 蔵之介が笑っていうと、海は同じように笑った。 「一緒に演奏してくれる人が欲しかったんだってさ」  海は蔵之介に添えた手を動かし、少しずつヴィンター師の曲に合わせて音を鳴らしていった。  ヴィンター師が曲を弾き終えると、三味線を後ろに置いた。  海も蔵之介から三味線を受け取り元あった場所に戻しに行った。 「ビアンカと喧嘩したか?」  ヴィンター師が聞くと蔵之介ははっとしてヴィンター師を見やる。  何も言っていないのに、と蔵之介は心を読まれている気がしてうつむいた。 「ビアンカはいい子だ。ちょっと頑張りすぎるだけなんだ」  ヴィンター師はいうと室内を指さした。 「海、昼食の準備だ」 「ああ、蔵之介の事頼むぞ」  海は言って家の中へ消えていった。まるで家事手伝いをしに来ているようにも見える。

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