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102話

「ビアンカが何か言ったか?」  ヴィンター師は蔵之介に顔を向けることはなく問う。 「言われたというか。俺は高いところが苦手なのに、高いところから飛び降りろって言うんです」 「そうか、高いところが苦手か」  ヴィンター師は顎ひげを指でつまんで撫でた。 「ビアンカは、俺が嫌だって言っても飛び降りないといけないって」 「子供か?」  蔵之介は聞かれ、思わず振り返る。海に聞かれていないかと奥をのぞき込むが海の姿はない。 「台所は遠い。気にしなくていい」  蔵之介はそれを聞いてほっとし、ヴィンター師の方を向いた。 「10人くらいか」 「何がですか?」 「お腹の中の子供じゃ」  蔵之介は思わず自分のお腹に視線を向けた。何人いるかなんて分からない。違和感が無さ過ぎて本当に妊娠したのかすら疑わしい。しかしヴィンター師は居るかいないかではなく、人数を言っている。それは本当にいるということなのだろう。 「どうして、人数が分かるんですか?」 「気配だよ、まあまだ明確には分からんがな。しかし、随分少なめにしたな」  ヴィンター師は蔵之介の方へ向いてお腹に手を伸ばした、蔵之介のお腹に手を触れると、蔵之介は急にお腹が熱くなったのを感じ、体をこわばらせる。 「大丈夫だ、信じなさい」  ヴィンター師はそういってしばらくお腹に手を当てていた。 「本来蜘蛛なら何百個も卵を産む。ビアンカも初めての母体だから気を使ったんだろうな。すごく丁寧に卵のうが作られておる」  ヴィンター師は蔵之介のお腹から手を離した。 「少し心の方に傷がありそうじゃな」  ヴィンター師はおもむろに、蔵之介の頭から頬、腕、胸、お腹と確認するように触っていく。  蔵之介は何をしてるのか分からず、しばらくじっとしていた。 「素直な子だ、ビアンカにはもったいない。まあ、お前の心が選んだことが正しい。  頬の内側に少し傷がある。後でビアンカに治してもらいなさい」 「傷?」 「最近できた傷だろうまだ治せる」  最近頬にできた傷。 「森の中で生贄争奪戦の時に受けた傷です。どうしてわかるんですか?」 外側からは傷跡もなく完治しているが、ヴィンター師には何かが見えているようだ。 「あとここだな。足を伸ばして座りなさい」  ヴィンター師は言って、骨盤外側から足の付け根を親指と手のひらで確認していく。 「最近強く開いたりはしなかったか? どうもここの調子がよくない」  蔵之介ははっとするが、それは言えなかった。バードイートに開かれた。体が割けたかと思うような衝撃だった。その後は、ここになにかと違和感を感じていた。しかし、ビアンカにも言えずずっとではないからそのうち治るだろうと気にしないようにしていた。

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