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108話 ビアンカと海が空へ
ヴィンター師に呼ばれ海は庭へ戻って来た。
「どうやって上にのぼるんだよ」
海は投げやり気味に言う。
「ゼノス、お前はどうだ? 上空に上がるならどうする? やってみなさい」
ヴィンター師に言われゼノスは驚き、蔵之介を見た。
「できる?」
「あ、あの、やってみます」
ゼノスは立ち上がり緊張気味に歩いて靴を履いて庭に出た。そして深呼吸をすると。手を前に伸ばした。
すると足元から糸が出てそれを土台に体が持ち上がり屋根にも満たない辺りで止まった。そして足場様に足の下に小さい土台を作った。
「これで糸か出る限りは進めると思います。でも私はまだそんなに多くは糸が出せないので一キロも登れないと思います」
ゼノスが言うとヴィンター師は満足げに頷いた。
「すごい。そんなこともできるんだ」
蔵之介も驚いて立ち上がった。
ゼノスはそこからぴょんと飛び降り、地面に着地した。すると足元にあった糸も柔らかく崩れ、ふにゃりと地面に落ちた。
「え、なにそれ、せこ」
海が驚いた様子で言った。
「せこくはないでしょう、こんなの子供でもできます。海もやったことあるでしょう?」
ピーが聞くと海は不満げに目をそらした。
「やったことない」
海が言うと、皆ぽかんとして海を見つめた。
「なんだよ、お前らまでバカにするのか!?」
ピーとビアンカを見て海は言い放った。
「いえ、これは小学で習うことです。海さんは小学に行ってないんですか?」
ゼノスが聞くと、「言ってない」と海はぼやいた。
その場の皆は混乱し、言葉を出せなかった。ビアンカは特に気にしてないと言った様子で海を見ていた。
「いいだろ、行ってなくたって」
海は言ってヴィンター師は少し笑った。
「まあそうだな。ビアンカ、海を上空一キロへ連れて行って、落としてきなさい」
ビアンカは頷き海に歩み寄る。
「なんだよ」
ビアンカは海の腰を掴むと抱き寄せ横に立たせた。すると、するすると足の下から糸が上空まで伸びそれとともに海とビアンカの体は持ち上がっていった。
蔵之介は黙ってそれを見つめた。
「あれ」
蔵之介は胸元で手を握り、服をぎゅっと掴んだ。
ドキッとした
胸が痛い
ビアンカが海の腰に手を回して……その光景を思い出すと、再びじくりと胸が痛んだ。
蔵之介は靴を履いて庭に出て上空を見ると糸が伸びる先は薄暗く既に見えなくなっていた。
「ついたよ」
上空一キロ付近につくと糸が止まった。バランスのわるい一塊の糸の上に海は立ってどうにかバランスを取っていた。
「本当に来れるのかよ」
海は驚いて辺りを見回した。
建物から明かりが漏れる城が遠くに見えた。
「すげー、絶景?」
海が話しているさなか、ビアンカは海の背中を押した。
すると「えええええええええ!!」と叫び名がら海の体は落ちていった。
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