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110話 蔵之介の歩み寄り

 今日は何度も泣いている。なんでこんなに泣いてしまうのか分からないが、感情が溢れだすと止められなかった。 「蔵之介、君が高いところが苦手たのは分かった。今日も話をした。もう少し時間がかかりそうだが話はつける。蔵之介はもう気にしなくていい」 「あの、俺……」  蔵之介は涙をぬぐった。 「ビアンカとなら飛び降りてもいい。あんまり高いと無理だと思うけど。ビアンカが一緒ならできると思う」  ビアンカはそれを聞いて蔵之介の頭をなでた。その手はやさしく蔵之介は撫で受け、あまえるようにビアンカの肩に顔を擦り寄せた。 「本当にいいのか?嫌なら断っていいんだ」 「大丈夫。ビアンカとなら」  蔵之介はビアンカのぬくもりを感じ目を閉じた。 「それでいいならそれで話をつけてみよう、蔵之介が安心できる形で話を進めるようにするよ」 「うん」  蔵之介はビアンカに肩を抱かれて安心していた。先ほど海の腰を抱き上に登っていったとき、違うと分かっていても取られるのではないかと思った。それをやきもちだと自覚し、恥かしくなったが、その気持ちはどうしようもなかった。譲りたくない。少しでもビアンカの力になりたい。  蔵之介はビアンカの腰をぎゅっと抱きしめた。  ビアンカは蔵之介の耳元にそっと顔を寄せ、まわりに聞こえない声でささやいた 「蔵之介、先ほど海の腰を抱いた時動揺していたが。大丈夫、僕は君にしか心を奪われたりしない」  耳元でするビアンカの声とその言葉に、蔵之介は顔が熱くなる。 「お、俺も!」  蔵之介は思わず、声を張り上げ、それだけまわりに聞こえた。皆は何かと二人を見るが、抱きしめ合っているのをみて、何かを察しお茶を飲んだ。海だけはその二人をひたすら睨みつけていた。  ビアンカがお茶を飲み終わると「帰ろう」と蔵之介に言った。  隣でお茶を飲んでいた蔵之介もお茶を飲み干す。 「ヴィンター師、そろそろ帰ります。今日は蔵之介をありがとうございました」 「うん、こちらも楽しかった。やはり人が多いのはいいのう。いつかお前さんたちの子供を預かるのを楽しみにしとるよ」  蔵之介は顔を赤くしビアンカの袖を掴んだ。 「良いんですか?引退されたのに」 「引退したものに一人送り込んできたのは誰だ?せっかくのんびり寝ていたのに、目が覚めた様だった。起こしたなら責任をとれ」  ヴィンター師は不満そうではあったが、どこか嬉しそうでもあった。 「またきなさい」  縁側に座るヴィンター師に言われ蔵之介は頭を下げた。 「また何かあったらいつでも来いよ」  海が言って手を振った。  蔵之介はビアンカに抱え上げられ、蔵之介は頷き手を振り返す。ゼノスはキーパーに抱えられ、ピーもあとに続き帰り道へと進んだ。  ビアンカは一度高く飛んだが、蔵之介が恐がりぎゅっと目を閉じ抱きついてきたのを見て低く飛び帰路を進んだ。

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