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111話
蔵之介はゆっくり目を開けると、ビアンカが高く飛んでいないことに気付き、ビアンカを見る。なんともない横顔だが、それが近くにありドキッとして顔を進行方向に向けた。
今日はおかしい、なんでこんなにドキドキしてしまうのだろう。
朝からすごく感情的になって怒ってしまった。ヴィンター師の元で何度も泣いて、ビアンカにも謝ることが出来て、仲直り出来て、今また傍にいて安心できる。
これが家族なんだ。だとしたら、昔一緒にいた家族はきっと家族じゃなかった。
家族と一緒にいて安心できる時間なんてなかった。
城について、ビアンカの部屋の前に着くと
「おろして」
と蔵之介は言った。しかし、ビアンカは下さずにピーが開けたドアへ入っていた。
ビアンカの様子も少し変だ。
蔵之介は首を傾げた。部屋の中に入るとやっと降ろされた。いつもと変わらない部屋。
「蔵之介、お風呂に入っておいで。食事を運んでおくから」
ビアンカが言うと蔵之介は頷いた。ゼノスと一緒にビアンカの部屋のお風呂へ向かった。
「ビアンカ王、大丈夫ですか?」
ピーも少し違和感を感じビアンカに問いかけた。
「大丈夫じゃないな、少し変だ。自分でも分かってる」
「なにか我慢でもされていますか?」
ビアンカは少し黙ってから口を開いた。
「蔵之介を抱きたい」
「なぜです?卵は産んだのでしょう?」
「言いたいことは分かる。既に卵は産んである、なのにしたいなんておかしい。蔵之介の体の負担になることだ。それを実際にするつもりはない、しかし蔵之介を見ているとすごく体が沸き立つんだ。こんなことは初めてだ」
ビアンカは手で口元を隠した。恥かしさを悟られない様、静かに呼吸をする。
「なら一緒に寝ない方が良いのではないでしょうか?」
ピーが言うと、ビアンカはよくわからないといった表情でピーを見やる。
「なぜ一緒に寝ると思っているんだ?」
「じゃなかったら部屋にいれて、風呂に入らせ、ここで食事をするなんてしないでしょう。お互い別の部屋ですればいいことです」
「確かにそうだ」
ビアンカは、本当に何も考えてなかったようで、嘆きながら頭を抱えた。
「ならなぜ部屋に運び入れたのですか?」
「蔵之介を部屋に返したくなかった……」
ビアンカはため息をついた。
「これは私のわがままだな、蔵之介は部屋に帰そう」
「すみません、私から切り出しておいてなんなのですが。蔵之介様も拒否はしておられないようなので一緒に寝てもいいかと思いますよ」
ビアンカは両手で顔を覆った。
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