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112話 授業の始まり
「いや、無理だ。一緒に居たら欲を抑えられる気がしない。けど離れたら寂しくて死ぬ。僕はどうしたらいい?」
「面倒なので蔵之介様と一緒にいてください」
ピーは投げやりぎみに言った。
「そうする」
ビアンカはため息をつき、顔から手を外した。
「食事を運んできてくれ」
「わかりました」
ピーは一礼して部屋を出ていった。
食事を終え、蔵之介は先にベッドに入った。風呂に入ったビアンカを待ちながらうとうとして、いつの間にか眠ってしまった。
寝ている途中でぬくもりが布団に入ってきたのを感じ、それに抱きついた。
「ビアンカ」
そのぬくもりはビアンカのものだった。起きなくても分かる。
「蔵之介、おやすみ」
おでこにキスをされ、蔵之介は気持ちよくなりそのまま眠りについた。
その次の日から蔵之介の教育計画が進み始めた。
初日は座学へ行き、そこで専門の先生に次々と話をされ、いろんな情報を叩きこまれる。
蔵之介は、必死に覚えようとしていたが、途中でゼノスに
「あまり集中して聞かなくて大丈夫ですよ。子供は蔵之介様が聞き流していても聞いていますので」
と言われ、安心して話を聞いていた。その時間の方が頭に入ってきやすかった。
午前中の教育が終わるとお昼の時間になり食事処に向かった。あまり時間がないということで、ビアンカも来ていない中、蔵之介は食事を済ませる。
午後の授業は糸の仕組みについてだった、どこからどのように出すかで強度や使い勝手が変わる様だ。
治癒糸は皆が出せるもので、基本知人同士でしかつかわない、恋人が出来れば恋人同士でしか使わない。医者にいっても重傷で無ければ医師が処方してはならない。原因を突き止め家族間で治療を進めるのが通常だった。
そこまで聞いて蔵之介ははっとした。昨日ヴィンター師に言われた治療個所をビアンカに伝えようと思ったのに忘れていた。布団に入るまでは覚えていたのに、布団に入ったら心地よくてすぐに眠ってしまった。
昨日のビアンカの体温は暖かかった。風呂上りなせいか熱くて……。
そう考えると、随分熱かった気がする。熱があったわけじゃないよね?今朝も普通だったし。
蔵之介は上の空になっていると、ゼノスに袖を引かれた。
「蔵之介様、聞いてましたか?」
「え、ごめん聞いてなかった。何?」
蔵之介が言うと、糸の師はため息をついた。
「蔵之介様、糸の勉強は実践を交えますので聞いていてください」
「ごめんごめん」
蔵之介は慌てて手を左右に振った。
ビアンカのことで気持ちがそれていたなんて、なんだか恥ずかしい。
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