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119話 海との運動
前々から海はまわりとは少しズレているところがあった。けどそれは悪い意味ではなく、やり方がここでのやり方に囚われたものでは無く、一人の人として存在している感じがしていた。そしてそれをまわりはとがめることもなかった。それは海ができることをしっかり見ている事を意味していた。
できないことがあっても、そこはおおめに見えてもらえたり、手伝ってもらえたり。ここではそれが普通だった。そこから学ぼうとする者もいる。それが今目の前で繰り広げられている騒ぎがその一つだった。
それは見ていて、心温まるものだった。
数分後、どうにか人を追い払い海は蔵之介たちのもとへ寄ってきた。
「ごめんごめん、ビアンカ王に頼まれて蔵之介の体力作りと筋力づくりの手伝いをしてほしいって言われたんだ。要望はそれで大丈夫か?」
「うん」
蔵之介が頷く。ビアンカが頼んでくれていたんだと思ったら蔵之介は嬉しくなった。
「まああんまり気張らず軽く走ろう」
海に言われるまま、準備運動をしてから一緒に城の中を走った。
5分も経たないうちに蔵之介は息を切らしてのろのろと走り出す。ゼノスも後についてきていてスピードはそれほど早くなかったが、体力があり蔵之介は途中で抜かされて、ゼノスは少し前を走っていた。
「ま、待って」
蔵之介はその場に膝をつき、手をついた。
「蔵之介、まだ一キロも走ってないぞ」
海が言って蔵之介の顔をのぞき込む。
「500mも走ったら十分だよ……」
蔵之介はぺたんとその場に座った。
「蔵之介様、でしたら歩きましょう」
ゼノスは蔵之介に手を差し出す。すると海はすぐに切り出す。
「歩いたんじゃ体力つかないだろ」
「でも走れないなら体力つかないですよ。私も体力がないときは走る距離の倍歩かされてました」
「走るときの倍……?」
蔵之介はつぶやきがっくりと肩を落とした。そんなに歩くなんてできない。
「考えるだけで挫折しそう……」
「大丈夫です、私が一緒に歩きますから。とりあえず30分歩きましょう」
蔵之介はゼノスに手を引かれとぼとぼと歩いた。
「これじゃあ散歩と変わらないだろ」
海が言って、なにかを思い付き蔵之介の方に歩み寄った。
そして、ゼノスの肩に手を置いた。ゼノスは何かと海を見上げる。
「タッチ、お前が鬼な」
「え」
ゼノスが何かと声を漏らす。
「鬼ごっこだよ、誰かにタッチすれば鬼が移る。ほら、蔵之介逃げるぞ」
海は蔵之介の腕を引き走り出した。
「ま、待ってください!」
ゼノスは慌てて後を追って走り出した。
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