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120話

 海は途中で蔵之介の手を離して別の方向へ走り出した。 「範囲はここの一角な。それより外に出たら強制的に鬼だ!」  海が叫びながら通路に囲まれたスペースを示した。蔵之介は頷く。 「鬼なんて嫌です!!」  ゼノスは必死に走って蔵之介に追いつき、背中に手を触れる。 「あっ」  蔵之介はすぐに振り返るが、ゼノスはさっさと逆方向に走り出していた。 「待ってよ!」  ゼノスの方に走り出そうとするが、別の方向で海が突っ立っていた。  蔵之介はそっちに走り、海に手を伸ばすが、海はそれをかわし走り出した。 「あ、ずるい!」 「なにがずるいんだよ」  海は笑いながら余裕そうに振り返って走り、ぎりぎりまで蔵之介をひきつけ、かわす。それを5回ほど繰り返し、6度目で蔵之介に触れさせた。 「よし、じゃあ俺が鬼な」  とゼノスの元に全速力で走って行った。  蔵之介は息を切らしてその場でしばらく動けなかった。  遠くでゼノスの悲鳴が聞こえ、顔を向けると海はこちらに走って戻ってきた。 「ゼノスが鬼だから逃げろよ」  と海は蔵之介の傍を少し離れた。 「もう、海がこっちに来るとゼノスもくるだろ!」  蔵之介はゆっくりと走り出した。  その後も鬼ごっこはしばらく続いた。  三人のはしゃぐ声に通りかかるものは目を向けては、笑う者、気にしない者、呆れ見なかったことにする者。それぞれが通り過ぎていった。  ビアンカはそれを3階の一角から眺めていた。 「楽しそうだな」 「海に任せて正解でしたね。ゼノスにもいい運動になってそうですし」 「……」  ビアンカは黙って何も言わなかった。 「ビアンカ様、妬いてますか?」  ビアンカはピーを見て、おでこを指ではじいた。 「痛っ」  ピーはおでこを手で押さえる。 「妬いてるに決まってるだろ」  ビアンカは言って会議室へと歩き出した。  会議さえなければビアンカも混ざりに行っていたのだろうか?とピーは考えたが、そんな遊びに付き合うビアンカの姿は想像できなかった。  ピーは思わず笑った。 「どうした?」 「いえ、ビアンカ様が鬼ごっこをするのを想像してました」 「想像力が豊かだな」  ビアンカは気にせず歩き出すが、立ち止まりもう一度ピーのおでこを指ではじいた。  それから一週間が過ぎた晴天の日。  天気はいいが風が強い日だった。蔵之介はぎゅっと目を閉じ、ぎゅっとビアンカを抱きしめ、小さく身を縮めていた。 「蔵之介、熱烈に抱きしめてくれるのは嬉しいけど、ちょっと痛いよ。足場は広げたから目を開けてみて」 「無理ぃ」

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