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121話 上空500メートル
二人は上空500メートルにいた。蔵之介は強い風が吹き付ける度に体を震わせて、ビアンカを抱きしめる手が強まる。
「500メートルって東京タワーよりも高いんだよ!知ってる!?」
「そうらしいね」
ビアンカはほほ笑みながら答える。東京タワー自体は知らないが先ほどから蔵之介はその言葉を繰り返している。
なかなか落ち着かない蔵之介の背中を軽くなでた。
「大丈夫だから一度目を開けてみて。少しでもいい」
蔵之介はぎゅっと瞑っていた目をそっと開けた。その隙間からぼんやり見える青空。それが見えただけで蔵之介は再び目を閉じた。
「高い無理!!!!」
蔵之介は叫ぶ。
ビアンカは蔵之介をしっかり立たせて、自分の体と蔵之介の体が離れない様、糸で巻きつないだ。
「大丈夫下を見て。絶対に落ちないから。」
「下なんて見れないよ!」
なかなか落ち着かない蔵之介をビアンカは抱きしめ、一緒に座った。落ち着くまで時間がかかりそうだった。一度蔵之介が落ち着くまで待とうと高い空から景色を眺めていた。
「あ、ほら、飛行機が上を飛んでる」
ビアンカの言葉に蔵之介は上を向いてからゆっくり目を開けた。
「ほんとだ」
やっとのことで飛行機だけ見て、目を閉じてビアンカに再び抱きついた。
「あの飛行機より地面は近いよ」
「あの飛行機、すっごく遠くを飛んでるよ!あれより近くたって高いのは分かり切ってるんだから」
蔵之介はだんだん弱気に話して、ビアンカの服に顔をこすりつける。
「蔵之介が好きな食べ物は?」
ビアンカは蔵之介を落ち着かせようと別の話を振った。
「カレーライス」
「好きな色は?」
「緑」
「好きな人は?」
「……ビアンカ」
蔵之介は聞こえるか聞こえないかのわずかな声でつぶやいた。
「ごめん風の音で聞こえなかった。誰が好きなんだ?」
ビアンカは顔を近付け聞く。
「聞こえてたでしょ?」
蔵之介がうっすら目を開けると、ビアンカの顔が目の前にあり、他は見えなかった。
「うん、もう一度聞きたい」
ビアンカは言ってほほ笑んだ。蔵之介は頬を赤くする。
「なら言わない」
蔵之介はビアンカの胸に顔をうずめる。
数分経っても蔵之介は恐がったままだった。落ち着いて目を開けば再び恐がり、ビアンカに縋りつくを繰り返していた。
「蔵之介、そろそろ降りようか?」
座って蔵之介は落ち着いた時にビアンカは聞いた。
このままではらちが明かなそうだった。
「うん」
蔵之介も同じくこのままではどうにもらないと感じ頷いた。ビアンカは立ち上がり蔵之介の体を糸でつなげたまま持ち上げる。
蔵之介は目を閉じたまま、ビアンカに抱きついていた。
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