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139話

 片手は蔵之介の服の裾をめくり太腿を撫で、反対の手はお尻を布越しにさわり、蔵之介の胸元に顔をうずめる男がいる。その男はビアンカなわけだが。  急に海が入ってきたことに戸惑う蔵之介の目は潤み、顔は真っ赤だった。  海はすぐさま蔵之介からビアンカを引き離そうと飛び出し殴りかかった。  しかし、ビアンカもそれを予測し、蔵之介を抱き上げ避ける。海の足に軽く蹴りを入れると海は体制を崩し勢い余って部屋の奥へと突っ込んで転がっていった。 「動きの反射は悪くないが、まだ遅い」  ビアンカは言って蔵之介のおでこにキスをした。そして蔵之介の襟元をただす。 「海も来たしいつも通りの運動をして勉強するんだよ。ゼノスの手帳を見れば予定は分かるはずだから。ゼノスが昼が過ぎても起きないようなら言ってくれ」 「うん」  蔵之介は恥かしそうに顔をそらし襟元をぎゅっと両手でつかんだ。 「ありがとう、疲れが取れた」  ビアンカはそういって部屋を出ていった。 「あー、くそ」  海は起き上がり、奥から戻ってきた。 「お前……」  海は、顔が真っ赤で服が乱れた蔵之介を見てそれ以上何も言わず目をそらした。 「ゼノスは寝てる見たいだけどどうしたんだ?」  ゼノスが蔵之介のベッドで寝ることはない。明らかに何かがあった後だと察したのだろう。事情を説明すると海は「今度はそっちか」と声をもらした。 「毎日毎日忙しいな。蔵之介の周りは」  海は意味深に蔵之介を見つめるがそれ以上何も言わなかった。蔵之介はなんだろうと思いながら、聞くのも変かと思い黙ってうつむいた。  海はゼノスの懐から手帳を取り出した。内容を確認して、閉じた。 「ゼノスが目が覚めるまで授業は付き合うよ。けど何するとかどこに行くかとかは分からないからその辺はまかせる」  海は蔵之介に手帳を渡した。 「ちょっと手広げろ」  海に言われて手を広げると、襟元から裾、帯をしっかり整えられた。ゼノスより力があるせいか帯がいつもよりきつく締められたが、しっくりきた。 「苦しくないか?」 「うん」  海に頭を撫でられ、海の手首の紐が目に入る。 「それ、その紐ゼノスもつけてたのにさっきのには効かなかったみたいだね」 「そういえば。……でも無かったらもしかしたら首が千切れていた可能性もある。ビアンカのものと考えるとちょっと不満はあるが効果がないことはないだろう」  海は先ほどのビアンカの行動を見たせいで内心苛立ち、敬意を忘れ呼び捨てにしている。蔵之介はそれを見て苦笑するしかなかった。ゼノスが起きていたら、またちょっと言い合いになっていただろう。

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