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141話
蔵之介に突っ込んだ蜘蛛は壁に激突し、壁を破損させその場でしばらくもがいていた。他の者が糸で蜘蛛を拘束した。しかし蜘蛛は抵抗しもがき続ける。何度かけても糸がぶちぶちと音を立てて切れていく。
「切りがない」
キーパーの一人が言って、周りに目配せし五人が蜘蛛を取り囲んだ。五人同時に床へ手をつくと糸が床を伝い、地面から蜘蛛へ鋭利な糸が伸び突き刺さった。蜘蛛はそんな状態でもしばらくもがいていた。しかしそれ以上は動けず人の姿へ戻った。
ビアンカは片手で蔵之介を抱えたままそれを見ていた。
「蔵之介、大丈夫か?」
「……うん」
蔵之介は鼻水をすすりながら言った。
蔵之介は先ほどまで蜘蛛の居た場所を見ると、そこには鋭利な蜘蛛の糸で各所を刺された人の形した者がそこにあった。人のものでは無い体液と人の血の色の体液が混ざり、糸を伝い垂れていった。その人はピクリとも動かない。
蔵之介は身を震わせ、ビアンカの服を掴んだ。ビアンカは蔵之介の怯えを心音で察して優しく背中を撫でた。
改めて蜘蛛の怖さを実感した。ここでは人と同じく誰かを恨み殺そうとして、誰かが殺される。それが蔵之介に向けられている。
ビアンカにゼノスのことを話して、海と共に部屋に戻った。
「どうして俺を襲おうとする人がこんなに多いんだろう」
さらわれそうになったり、性的に狙われたりした。けどいよいよ命を狙われるとさすがに恐怖の感覚が違った。
蔵之介は少し元気を無くし、今日はもう外に出たくないと言って部屋にこもった。
クリスマスプレゼントを海は開封して、蔵之介にひとつひとつ見せていく。その中から蔵之介が気に入ったものを選びそれ以外は運び出されていった。
「うーん」
海は貰ったものを眺めて、蔵之介に目を向ける。怪訝そうな目で見られ蔵之介は肩をすくめた。蔵之介には何がいいたいのかは察しがついていた。それゆえに困ったように眉を寄せた。
「な、なに?」
「まあ、蔵之介が欲しいって言うから置いといたけど」
海は小さいぬいぐるみを一つ手に取って蔵之介に見せた。
「なんでこんな子供向けの物が多いんだ?気が早すぎるだろ」
海が手に持ったおもちゃは、子供用に売られているおもちゃだった。誤飲防止に余計な装飾品は減らしつつ華やかに見せている。他にも子供向けの絵本や、遊び道具が並んでいた。
「ほ、ほら、俺はこの世界では子供みたいなものだから……」
蔵之介は誤魔化そうと言うが、たどたどしくそれが裏目に出て海は蔵之介にますます疑いの目を向けた。
これ以上言い訳ができない。
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