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143話

 海は驚き目を見開いた。 「そんな前……」  バードイートに襲われた日の夜は、ビアンカの部屋の中に居なかった。それを思い出し海はソファを殴った。蔵之介を守るために居るはずなのに、蔵之介を守ることもできず、勝手にへこんでビアンカからも守ることが出来ず、蔵之介を守るためと言いながら蔵之介から離れた。  どれを考えても自業自得だった。  海は悔しそうに拳を震わせ起き上がり、ビアンカから離れた。 「出産はいつだ?」 「春だよ」 「分かった」  海は部屋を出ようと歩き出す、しかしピーは手を伸ばし海を止めた。 「なんだよ」 「これだけのことをしてそれだけですか?」  海は位置のずれたテーブルと散乱した書類に目を向ける。ため息をつき、書類を拾い、テーブルの位置を元に戻した。 「これからどうするつもりだ?」  ビアンカに聞かれ、海は腰に手を当てた。 「蔵之介を守る。それだけだ」 「具体的には?」 「師匠に言って今日からここに戻る。蔵之介のやってることを知らず、出産間近になって置いてきぼりにされるのは嫌だからな」  海はそういって部屋を出ていった。 「これはまずいな」  ビアンカはつぶやき、少し考えてピーに指示を出した。 「海を海外に飛ばせないか?」 「それだといざ必要になった時に困りますよ。ここまで忠実に蔵之介様を守ろうとしてくれる人材はそう簡単に見つかる物じゃありません」  ピーに言われ、ビアンカは考え天井を仰いだ。 「これじゃあ蔵之介を自由に抱きしめられないだろ」 「今何か指示を出したとしても、追い出されるだけだと頑として従わないと思いますよ」  ビアンカは、報告書をそっちのけで何か方法がないか考えていた。ピーはそれを見てため息をついた。  海はヴィンター師の家への道を走っていた。  何事もなく話していた蔵之介は既にビアンカに寝取られ子供を作っていたなんて。  初めてビアンカの元から逃げ出して来た時、高いところから落ちるという話を思い出す。あれは子供への教育だったんだといまさらになって気づいた。それを聞いた時点で気づかなかった自分が悔しく、みじめで恥かしかった。何も知らなかった。蔵之介がどんな状況で悩み、苦しんでいるのか。  あの日、蔵之介は泣いていた。ビアンカの元には数日戻らないだろうと思っていたのに、迎えに来たビアンカについてその日のうちに帰っていった。その行動が理解出来なかったが、今なら筋が通る。 「バカすぎるだろ、俺……」 海はそうつぶやきヴィンター師の家の前で立ち止まり、中へ入った。

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