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145話 正月の日
「確かに足は遅いですけど、私も蔵之介様をお運びすることくらいはできます」
ゼノスの小さい体でどう運ぶのかは分からない。しかし、蔵之介は「頼りにしてるよ」と笑って言うとゼノスは嬉しそうに頷いた。
「ビアンカ王にもヴィンター師にも話はつけてきた。時間を見つけたらトレーニングはさせてもらう事にはなるけど、特に気にしなくていい。蔵之介は必要な事をして、自由な時間には好きなことをしていてくれ。」
海が言うと、蔵之介は鼻を啜った。気付くと蔵之介は目から涙を溢れさせていた。
「なんで泣くんだよ」
海は飽きれて蔵之介の頭を撫でた。
「ごめん、さっき怒って出ていったからしばらく会えなかもとか、もうキーパーになってくれないかもとか考えてて。海が帰ってきてくれて嬉しいんだ」
蔵之介は袖で涙をぬぐった。
「海は俺のことすごく心配してくれてるし、ビアンカとの関係もすごく気にしてくれてて、妊娠したって知ったら、嫌われちゃうのかなとか。それが理由で口も来てくれなくなるんじゃないかって……思って」
蔵之介は泣きながら言葉を絞り出した。
「どうしてそんなにネガティブな事ばっか考えてるんだよ。俺はお前の事好きなんだからそんな事で嫌うわけないだろ」
「うん」
海は言って、蔵之介を抱き寄せた。蔵之介は頷き海の肩に顔を寄せた。海は少し黙ってため息をつく。
「蔵之介、今の好きっていうのはお前と一緒に居たいって事だからな。ビアンカが見捨てても俺はお前の傍にいるから」
「うん」
蔵之介はそう返事して目を閉じた。
「ビアンカは俺を見捨てたりはしないと思うけど。海は一緒に暮した家族だから。俺も一緒に居られたら嬉しいよ」
「なら一緒にいる」
海は蔵之介の頭を撫でて蔵之介が離れようとするまで抱きしめていた。
海が帰ってきて、数日がすぎ人間の世界では正月を迎えていた。ここでもそれは期間の区切りとして皆休みを取ったり、盛大な行事が行われたりしていた。蔵之介は料理人の作ったおせち料理で正月気分を堪能していた。
「すごいね、おせち料理も作ってくれたんだ」
蔵之介はちょっとずつ並べられたおせち料理を箸でつまみ口に運んでいく。
「お金かかったんじゃない?というか、海は食材買うお金ってどうしてるの?」
海はかずのこをこりこりと噛みながら、目を仰がせた。
「空から降ってくるんだよ」
「どういう事?」
蔵之介が聞くと海は笑って蔵之介の頭を撫でた。
「蔵之介は高いところが苦手だからどうやって空から降ってくるのか知らないんだな」
蔵之介は少し不機嫌そうに唇を尖らせた。
「高いところが苦手でもお金が空から振ってこない事ぐらいしてるよ」
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