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146話
そんな会話の横でゼノスは真剣にお皿の上の伊達巻を睨みつけていた。これなら美味しいからと蔵之介がゼノスに勧めたのだがゼノスはなかなか人間の食事に手をつけられずにいた。
「これ、本当に食べて大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思うけど」
蔵之介は海を見る。
「そうだな俺が食べても大丈夫だから大丈夫だろ」
「海さんは……お腹が強そうですし」
ゼノスは言って、食べるに食べれず百面相していた。
「まあ、お腹の強さは人それぞれだからな。でもビアンカ王も同じもの食べてるはずだぞ」
海が言うと、ゼノスは海を見た。
「本当ですか?」
「ああ、同じものが入った重箱をピーが部屋に運んでいったからな」
ゼノスは目を伊達巻へ戻す。意を決して箸を持ち、伊達巻を切り分けひとかけらを口へ運んだ。
真剣なゼノスに思わず蔵之介も緊張して、ゼノスが口に入れる瞬間を見守った。
ゼノスが伊達巻を口に含みぎゅっと目をつむった。数秒たちゼノスは目を開く。
「おいひい」
ゼノスは頬を赤くし、高級食材で作られた高級な食事を口にしているかのような、とろける顔をしていた。
「やっと食べたか」
海が笑いながら言った。
「今まで食べたものの中で一番おいしいです」
ゼノスはぱくぱくと伊達巻を口に入れゼノスのお皿の上は空になった。
そして重箱の伊達巻に目を向ける。
「食べたかったらもっと食べて良いよ」
蔵之介が言うと、ゼノスはハッとして首を横に振った。
「いけません、世話役の身分でこんな風に一緒に食事をとるのも恐れ多いのに、蔵之介様の貴重な食事をこれ以上食べるなんて……」
と言いながらもゼノスは目を輝かせ黄色く、綺麗に巻かれた伊達巻を見つめていた。
「恐れ多いことをもうしてるのに、今更何を恐れるんだよ」
と海は伊達巻を一つとって口に居れた。
「海さんはさっきから食べすぎです!」
「ゼノスが食べないなら俺が全部食べてやるからな」
「これは蔵之介様のお食事です!」
二人が言い合うのはいつものことだった。蔵之介は笑って煮豆を口に入れる。甘くて一つで満足する味が広がる。
海が戻ってきてからこんな言い合いが毎日一度は起きる。言い合っても気付いたら仲直りしているので、蔵之介は慣れ黙って見守っていた。
年が明け三が日が過ぎると、蔵之介の教育は再開された。
数か月が経ち、暖かくなり始め桜が咲く季節。蔵之介のお腹は大きくなっていた。
「あーひまぁ」
蔵之介はベッドに上半身を預けながら座っていた。お腹が膨らんできていて起き上がっているのがしんどい。けどずっと寝ているのもつまらなかった。
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