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149話
準備を始めているオレンジ色の衣の人が何人かいて、お湯が入った浅い桶がいくつか置かれていた。
「ここで生むの?」
蔵之介は不安そうにビアンカを見上げる。
「ああ。蔵之介は紐に捕まって、体は起こしたままでいるだ。そうしたら子供は降りるように出てくる。蔵之介は子供が出やすいように体を正しているだけでいい」
蔵之介は膝をついて座り。紐を抱きかかえた。掴み寄り掛かると軽く揺れはするが上下とも天井と床に繋がり安定していた。
「ベッドとかで産むのかと思ってた」
蔵之介は紐に身を預け体を揺らした。先ほどまであった気持ち悪さが落ち着き、今は冷静でいられた。
「産まれてくる人数が多い。一人目が出ればその後連なるように出てくることが多いんだ。寝ている状態ではそれが滞ってしまい、体に負担がかかる。この方が早く終わり、負担が少なくて済む。辛くなることもあるかもしれないが、頑張って欲しい」
ビアンカに言われ蔵之介はしっかり頷いた。再びよくわからない気持ち悪さがこみ上げ蔵之介は口元を抑える。
蔵之介はただ不安で、この後どうなるのか想像もできなかった。座った状態で産むなんて大丈夫なのだろうか?体は持つのだろうか?痛みは?蔵之介の頭に疑問がよぎるが、どれも声には出せなかった。
「ビアンカは?」
一緒にいてくれるのだろうか?蔵之介はそれを言うのはわがままな気がしてそれ以上言えなかった。人間の世界では男性が付き添うのは今でも五分五分だ。それを求めるなんてためらわれた。
「大丈夫、ずっとそばにいる側にいる」
蔵之介は片手で縄を掴みながら反対の手でビアンカの服を掴んだ。ビアンカは欲しい言葉をくれる。
ビアンカの服を掴むその手は震えていた。震えさせたくて震えさせてるわけではない、恐怖で勝手に震えてしまう。体の中で何かがうごめく感覚。本来ならいるはずのないものがそこにいる。感じたことのない震えがさらに不安を煽った。
ビアンカは蔵之介の様子を見て、蔵之介の左肩から背中を撫で右肩への手を動かした。
そこには服の上から糸が張られ、暖かさが増した。
「深く深呼吸して」
ビアンカに言われ、蔵之介は深呼吸を繰り返した。ビアンカの手は背中に触れる。
じっと耐え深く呼吸を繰り返す蔵之介を側でビアンカは見守っていた。
「蔵之介が不安がると子供たちも不安になってしまう。大丈夫、安心して僕はここを離れたりはしないから」
「うん、離れないでね」
蔵之介は言って、安定した呼吸を繰り返した。
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