152 / 204
150話
ゼノスはジュブナイルとのことで室内には居なかった。かわりに海が立ち合い、少し離れたところで立ち、怪訝そうに蔵之介を見ていた。ピーは周りへと指示を出し忙しそうにしていた。
蔵之介とビアンカのいる中央周りに屏風が交互に並べられ、周りの人たちは見えなくなった。
「服をめくるよ」
ビアンカはそういって、蔵之介の衣の裾をめくり腰に巻きつけた。下半身に履いていたズボンを下され脱いだ。そしてお尻の下に座布団を置かれた。
「この座布団に産み落とすんだ。そうしたら看護師が座布団ごと運んでいく。そして新しい座布団を敷き直す。そして産み落とす。それを繰り返すだけだ」
繰り返すだけだと言われても、清潔感やこんなところを誰かに見られるというのも不安があった。しかしわがままも言っていられない。蔵之介は泣きそうになるのを堪えた。今は泣いている場合でもない。
ここにきてどれくらい時間がたっただろうか。
蔵之介は深呼吸を繰り返し、涙目でひたすら今の状況に耐えていた。陣痛は痛みがあると聞いていたがそれはない様で、それが救いだった。
いつ出てくるのか全く分からないが、お尻の方へ何かが突き進む感覚がある。
汗と涙が自然と溢れた。テレビでみたことがある出産シーンのように助産師は居ない。どうすればいいのか全く分からない。ただひたすら、体の中で出ようとする子供の動きに集中した。
急にひんやりとした物が顔に触れる。見るとビアンカが湿らせたタオルで蔵之介の汗を拭いていた。蔵之介はビアンカを見つめるが、何も言えず呼吸を繰り返した。
「大丈夫。無事に終わるから」
ビアンカの言葉に頷き蔵之介は、紐を両手で握りしめた。
突然ぷつりと音を立てた。すると周りで待機して居る看護師立ちがざわめいた。
ビアンカは蔵之介のお尻を覗き背中を撫でた。
「大丈夫少し出てきてる」
「うん……」
蔵之介は目から涙をぽろぽろ流しそれしか言えなかった。
排便に近い感覚だけど、それとは全く違う。何か異物がじわじわと出てきている。意思を持って。
大きさも人間の子供程ではなさそうだった。しかし、なかなか出てこない。
「蔵之介いきんでみて」
ビアンカに言われ蔵之介はお腹に力を入れ、子供を押し出そうとした。
するとゆっくりと子供は外へと押し出されていく。
それは進むにつれ大きくなり、口が開かれていった。
「んあ、痛い」
蔵之介は初めての感覚に体を震わせた。
でももう少しで子供は出てくる。蔵之介はひたすら深呼吸を繰り返し、痛みに耐えた。ビアンカの触れる手だけに意識を向けた。そうしないと気を失ってしまいそうだった。
ともだちにシェアしよう!