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152話 生まれた子供達
「蔵之介、すこしお腹の中を調べるよ」
とビアンカが蔵之介のお腹に触れ、目を閉じた。蔵之介は返事も出来ず、意識がもうろうとしていて紐を掴んだまま座っていた。
ビアンカの手に暖かさを感じ、蔵之介の意識が途切れた。離れてみていた海がそれに気づきとっさに走り寄って、蔵之介を支えた。
「そのまま」
ビアンカはそういって、蔵之介のお腹に手を当てていた。一分ほど経ち、ビアンカは蔵之介のお腹から手を離した。
「気配はない。これで終わりか。まだ卵の中に居るのかもしれない」
ビアンカはそういって、蔵之介の疲れ切った顔をから汗を拭きとった。
「あちらのベッドへ運んで少し休ませよう。産まれる様子が無ければ部屋へ連れて休ませよう。」
「はい」
ビアンカに言われ、海が蔵之介の服を正し、部屋の隅にある簡易なベッドへ運んだ。ビアンカは蔵之介を海に任せ、子供の元へ向かい一人ひとり確認した。
それは全て蜘蛛の形をしていて、水の入ってない桶の中を元気に歩き回っていた。
看護師達は子供たちが逃げ出さないよう見張り、出てくるとすぐに桶の中に戻す。それを繰り返していた。「元気すぎて困ります」看護師たちが言って、周りもなごみ笑っていた。
ビアンカは子供たち全員確認し終えると、桶の上に治癒糸を張り、子供が出られないようにした。
しばらく子供たちは好奇心で糸と桶の中を歩き回っていたが、糸にくっつくとさかさまのまま動かなくなった。
「治癒糸で寝たようだな。監視は続けてくれ」
ビアンカはそういって蔵之介の元に戻った。ベッドに横たわる蔵之介は意識を取り戻し、うっすら目を開けていた。
「蔵之介。子供は9人生まれた。全員元気に走り回っているよ」
ビアンカが蔵之介に言うが、蔵之介の呼吸は浅くビアンカと目を合わせようとしなかった。
「さっきから様子が変だ。声をかけても返事がないし、手を握っても握り返す様子もない」
海は蔵之介の手を握っているが、握られた手は力が入らずそこに置かれたままだった。
「心音は安定している。むしろそれがおかしいのか?」
ビアンカは言って、蔵之介の胸元の糸を確認する。
「子供をあれだけ産んだんだ。動揺しててもおかしくはない。出血も少ししてるし、それを治すために血流も上がるはずだ」
海に言われ、最悪の想像がビアンカの脳裏をよぎった。頬から冷や汗が流れる。
「治癒糸で体の回復を促そう」
ビアンカが蔵之介の体に糸を張ろうとすると海がその腕を掴んだ。
「蔵之介は大丈夫なんだろうな?」
海に睨まれ、ビアンカはほほ笑んだ。
「大丈夫だ、信じて」
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