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156話
「村田さん、今日安売りしてたからいろいろ買ってきたよ……」
男に言いながらテーブルを見るとそこには海が居た。
「あ、その蜘蛛」
慌ててテーブルに駆け寄る。
「あの、これは。掃除してるときに入ってきちゃったみたいで。ごめん追い出すよ」
蔵之介がテーブルに置いた手に海は歩き、よじ登った。
「問題ない。飼えばいい」
村田はそういって立ち上がった。
「風呂は沸かしたから、先に入ってくる。夕食を作っておいてくれ」
「うん」
村田はリビングを出ていった。手の甲に乗った海をそのまま持ち上げ、背中を撫でた。
「よかったね。名前は海でいいよね?」
蔵之介が言うと海は頷くように首を動かし、手の甲からおりてテーブルに着地した。その後、テレビのリモコンの上で何度かジャンプしてテレビをつけた。そしてテレビの方に向いてそのまま見ていた。テレビは将棋の盤面を映している。
それを見ていた蔵之介は驚いて一瞬言葉が出なかった。しかし将棋を見ているのだと理解し
「変なの」
とつぶやいて、夕食の準備を始めた。
鍋でクツクツと野菜を煮立たせていると村田が風呂から上がり出てきた。
テレビの前のソファに座り、チャンネルをクイズ番組に変えると、海は振り返り不満そうにその場で飛び跳ねた。
「いい運動になりそうだな」
村田が言うと海は諦め、蔵之介のいるキッチンへ向かった。蔵之介は調理に使った道具を洗って片付けて居た。
片付け終えると海が居るのに気付きほほ笑んだ。
「そんなところで何してるの?料理に落ちたら大変だよ」
蔵之介が言うと海は鍋を見てそこから数歩離れた。
蔵之介はカレールーを取り出し、火を止めて鍋に入れた。
ルーが解けるまでじっくり混ぜ溶け切ったら再び火をつけ煮立たせた。それは空腹を誘う香りで作ってる蔵之介も早く食べたくて仕方なかった。
ご飯を皿によそい、出来上がったカレーをかけた。そしてラッキョウを乗せる。それを二皿準備してリビングへお皿を運んだ。
水とスプーンを運ぶと村田は、律儀に「いただきます」と言って食べ始める。
蔵之介も「いただきます」と言って食べ始めるが、目の前で海がじっと見つめてきているのが目に入った。
「蜘蛛ってカレー食べられるの?」
「食べるわけないだろう。勝手に部屋の中の虫を食べるよ。明日は餌を買ってきてやれよ」
「うん、この蜘蛛は俺が世話するの?」
村田怪訝そうな顔をした。
「俺がするわけないだろ。お前の蜘蛛なんだからお前が世話しろよ」
蔵之介はカレーを一口食べてもぐもぐと咀嚼し、飲み込む。
「なんで俺の蜘蛛って分かるの?」
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