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157話

 村田は何も言わず、テレビを指さした。これの答えが分かるか?  そこに映っているテレビを見ると、白い小さな球が映し出されていた。問題は何の卵かだった。 「卵のう?」 「何のだ?」 「セアカゴケグモかな?」 「そうだな」  一般的には難しい問題だなと思いながら見ていたら答えは“蜘蛛の卵”だった。蔵之介は納得が行かず、海も納得がいってないのかその場で何度か跳ねてくるくると歩き回った。  蔵之介が話をはぐらかされたと気づいたのは寝る直前の事だった。まあいいかとそのまま眠りについた。  次の日、蔵之介はいつも通り目を覚ますと、みそ汁が出来上がりごはんが焚けていた。 「村田さんもう起きたのかな?」  みそ汁の鍋の蓋を開けるとわかめと豆腐といちょう切りの大根が入っている。 「あとはおかずか」  と蔵之介は冷蔵庫を開いた。  それから蔵之介と村田と海の奇妙な生活が始まった。  蔵之介は海のご飯を買ってきて、海に与え自由に過ごさせていた。しかし村田は蓋が厳重に閉まるゲージを買ってきて、海に入るよう指示した。 「なんで急に入れるの?」 「居れてるゲージを置いてないと、毒蜘蛛の放し飼いがバレた時ら問題になる。置いておけば何かあった時言い訳ができるだろう」  理由としてはずっと入っていろ、という事ではない様だった。海は仕方なく一度中に入って見せるが、すぐに壁をよじ登って出てきた。そしてまた入って中にある木に穴の空いた小屋に入って行ってそのまましばらく出てこなかった。  どうやら部屋としては気に入ったらしい。各自部屋を持ち、平凡な生活が続いた。しかし蔵之介の心は何かかけたようなそんな感覚が胸の中を事あるごとによぎっていた。  何か大切なもの無くしてしまった様な、喪失感。それは両親のことではない。どこかに帰る場所があるような、帰りたい場所があるような気がしていた。それでも今の生活は平和で何の問題もない。村田との生活もそれなりに楽しかった。この生活がこのまま続けばいい、そうすれば喪失感はきっとなくる。そう思っていた。  しかし2週間程経ち、突然海が居なくなった。部屋の中を探し回ったがどこにもいなかった。蔵之介は心配になり、外にも探しに向かった。近所の公園や、近くの山へと続く茂みを捜し歩いた。歩き回っていつの間にか暗くなっていている事に気付き。これ以上遅くなると村田さんに心配をかけると思い、とぼとぼと歩いて家に向かった。  家に帰ると、村田は帰宅していて出迎えてくれた。帰っても海は居なくて蔵之介はへこんでテーブルに突っ伏した。

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