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159話
「簡潔にお話しすると、蔵之介様は我が国の王、ビアンカ様との子供を授かりました。その後蔵之介様の記憶をビアンカ様が消し人間の世界へとお戻しになりました。当時の蔵之介様は心を痛め病んでしまわれて、そうするしかたかったんです。ビアンカ様は蔵之介様と離れ大変悲しみました。
しかし、国民にはそんな悲しみなど関係なく生贄を解放したことに怒り、王を王座から叩き落とし、王の座は崩れました。今は囚われ吊るしあげられ奴隷以下の扱いで、日々鞭うたれ苦痛と血を味わい、死ぬことも許されておりません。」
ゼノスは涙を流し再び頭を下げた。
「……蔵之介様がお戻りになれば少なからずビアンカ様は解放されます。どうかお戻りください」
ゼノスの声は震えていた。
多分これが最後の望みだと思い来たのだろう。しかし蔵之介は困ったように頭を掻いた。
「それって、俺に戻ってビアンカって人の代りになれって事?」
蔵之介が聞くと、ゼノスはピクリと体を震わせた。
「そんなことは、そんな事にはならないと思います。ビアンカ様が蔵之介様をお守りします」
ゼノスは震えながら言った。どうなるかなんて考えていなかったのだろう。ただこのゼノスはビアンカを救いたいと思って来ただけだ。
「俺はその世界で心を病んだって事だよね?だとしらた俺が戻ったら同じ状態になるんじゃないの?何があったか全然覚えてないけど、そんなところに戻ろうとは思えないんだけど」
蔵之介の言葉にゼノスは何も言い返せず頭を下げたままだった。
生贄になった。体の中をいじられた。その事が頭をよぎりお腹に触れる。途中から聞いたため詳しくは聞けなかったが内臓が負傷しているとの事だった。何かがそこにあった形跡があると。
ゼノスはハッとして、懐から白いものを差し出した。
「こちらをお使いください」
蔵之介は差し出された物を見た。それはマフラーの様で白く輝いている。蜘蛛という事は蜘蛛の糸で作られているのだろうか?
「これはなに?」
「以前ビアンカ様が蔵之介様の為に治癒糸で編まれたマフラーです。そちらをお腹にまけば体内への治癒力が高まり違和感が減るかと思います」
蔵之介は、綺麗に光るそのマフラーに惹かれるように手を伸ばした。治癒力を信じていたわけではない。
しかしその手を急に掴まれた。掴む腕の先を見ると、村田だった。
「やめとけ」
蔵之介は手を引いた。村田はそのマフラーを掴むとゼノスに投げ返した。
「もう生贄の役割は終わったんだろ。王がどうなろうと蔵之介には関係ない。手放したのは王だそれを蒸し返すな」
ゼノスは投げ返されたマフラーを抱え、何者かと村田を見ていた。
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