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160話
「貴方は……?」
ゼノスはマフラーをぎゅっと握りしめる。
「どうだっていいだろさっさと帰れ」
村田はゼノスの腕を掴むとリビングの窓を開け、ベランダへ放り出した。
「これ以上巻き込むな」
そう言い放つと、窓をぴしゃりと閉め、鍵をかけカーテンを閉める。村田は蔵之介の方へ振り返った。
「忘れてもう寝ろ」
村田は蔵之介の頭をくしゃくしゃと撫で、横を歩き通り過ぎた。
「何か知ってるの?あのマフラーは……俺は戻らなくていいの?」
「さっきは戻ろうとは思わないって言ってただろ、ほっとけ」
蔵之介はそれを聞いて、うつむいた。
「それは言ったけど」
確かに言ったがゼノスは泣いていて、ビアンカを助けようとしている。
「俺が戻ることで助けられるなら戻った方がいいんじゃないの?」
蔵之介は罪悪感を感じ、聞くと村田は背を向けたまま答えた。
「さっきの治癒糸は効果が高い。触れれば破損した脳も回復しただろう。お前の記憶を取り戻させ、あいつは無理やり引き込もうとしてたんだ。そんな奴を信じられるのか?」
破損した脳。それは記憶を無くした部分のことだろう。蔵之介は答えが出せず、何も言えなかった。
「ビアンカって誰なの?」
ビアンカという名前を呼ぶと胸が熱くなるのを感じた。
一部始終を見ていた海はぴょんとテーブルから降り蔵之介の元へ向かう。
しかしそこを村田に捕まれた。
手の中でもがくが、村田は海をゲージにいれ蓋を閉めた。
海は怒ったように中で糸を吐き出した飛び回った。しかし村田はふんと鼻を鳴らし
「しばらくそこでおとなしくしていろ」
とゲージから離れた。
「俺はもう寝る。余計なことは考えるな。お前はここで暮してた方が幸せだ」
村田に言われるが、蔵之介は胸の中でもやもやと何かが渦巻いていた。
ビアンカが鞭うたれている?どんな人かもわからないが気になって仕方がなかった。布団に入って頭まで布団にもぐりこんだ。
俺は本当に戻らなくて良いのかな?
何一つ思い出せない記憶だが、一つだけ淡いイメージが残っていた。白い髪の人が立っていて、蔵之介に手を差し伸べる。蔵之介はその手を取ると引かれ抱きしめられ、その腕の中はとても幸せで暖かかった。今ここでの暮らしよりもそれは満たされた。
蔵之介は目を覚ますと陽が登ってカーテンからいつも通り光が漏れていた。
起き上がりベッドから出てキッチンに行くと、海が来てから毎日用意されていたごはんとみそ汁が用意されていなかった。
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