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162話 子供達
男が飛び降りた勢いで輝く糸が舞った。蔵之介の伸ばしていた手にその糸が触れる。その瞬間蔵之介の脳裏にいろんな情報が解き放たれた。「すまない蔵之介、すぐ楽になるから」そう言ったビアンカの最後に聞いた言葉が頭の中に響きそれに続くようにいろんな言葉が溢れ出した。それは一瞬の事。
すぐに男にとびかかられ、蔵之介は部屋の中へと押し倒された。
「い、嫌だ」
蔵之介は恐怖の表情を浮かべ涙を流した。
それと同時にベランダの窓が割れ、男は後ろから蹴り飛ばされ部屋の中に転がりテーブルや椅子をなぎ倒した。
「お前ら……まだついてきてたのか」
蔵之介が見るとそこには白い髪の子供が6人蔵之介を守るように並んでいた。
その一人が振り返る。
「ママ!早く逃げて!」
蔵之介はそれを聞くと驚き目を見開いた。
「ママ?」
蔵之介がつぶやくと、蔵之介の体は糸にくるまれ窓の外に引っ張られた。体はそのまま上空へと引っ張られ雲にも届きそうな位置まで蔵之介は舞い上がった。
「え?ちょっとおおおお!!!」
そのまま少し落下して蜘蛛の網に落ちた。そこで軽く体がはねる。
「ママ、どう?僕こんなに高くまで登れるようになったよ、すごい?」
無邪気に先ほど見た6人に似た子供が自慢げに言って見せた。
「す、すごいけど、怖いから降ろして!!!」
「本当!やったー!」
子供はよろこんで蜘蛛の網の上でジャンプすると網が揺れた。
「お、お、お願いだから揺らさないで!」
それでも夢中で子供は飛び跳ね続ける。蔵之介は目をぎゅっと閉じて、必死に網にしがみついた。
「お願いだからママのいう事聞いて……」
蔵之介が泣きながら言うと、子供はそれに気づいておとなしく蔵之介の隣に座り糸をほどいた。蔵之介は身を縮め座り、やっとの思いで体を起こした。
「ママ、会いたかった」
そして、子供は蔵之介の胸に抱きついた。蔵之介は戸惑うが、鼓動が高鳴った。この子は間違いなくビアンカとの子供だ。先ほど包まれた糸も、ビアンカの物に近い。蔵之介は子供を抱きしめ頭を優しくなでた。
「蔵之介!?」
地上から海の声が聞こえた。見ると地上で海は人の姿で立っていた。
「ひっ」
その高さに蔵之介は思わず目を瞑った。
「そうだ、ママは高いところが恐いんだっけ?」
「そ、そう。こ、怖いんだ。下してくれる?」
「うん」
子供はそういうと蔵之介の体を糸でぐるぐる巻いた。
「あの、まって!このパターンは駄目……」
蔵之介が言い終わる前に子供は蔵之介を巣の外へ落とした。そこから糸が伝い子供は少しずつ糸を伸ばして下していく。
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