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164話
「海」
「ん?」
海はなかなか起きないゼノスを持ち上げた。
「俺、全部思い出したよ」
蔵之介が言うと、ゼノスはびくりと体を震わせ目を覚ます。
「ビアンカの所に帰りたい。俺を連れて行って」
蔵之介の言葉に覚醒したゼノスは何度か目をぱちぱちと瞬かせ、言葉を理解すると涙を溢れさせた。
村田は電話で話していた会話を止め、電話を切った。
「村田さん、俺たちを前連れて行って貰った森のまで連れて行ってくれませんか?」
村田はため息をついた。その男は蔵之介が生贄になる時森の入口まで蔵之介を運んだ、巨体の男だった。
「良いのか?記憶が戻っても向こうに戻る必要はない。言ったら多分もう戻ってこれないぞ。それで死ぬまで子供を産まされる」
村田が言って、蔵之介はうつむいた。泣きべそをかいた子供たちが蔵之介に抱き着いたり蔵之介を見上げたりしていた。
「ビアンカとの子供なら、産みたい」
「生贄は王だけじゃない、王が許可をすれば他の奴とも。海ともゼノスとも性交することになるかもしれないんだぞ。その二人ならまだしも、顔も知らない、どんなやつかも分からない男に抱かれる。それでいいのか?」
「それは……」
蔵之介は言い淀む。確かにそれは嫌だ。嫌だけど。
「それは俺がビアンカに話して説得します」
「お前のせいで鞭うたれてるのに、これ以上いざこざは起こしたくないはずだ。国民の声に負ける可能性が高い」
「それでも、俺は説得します!ビアンカなら分かってくれると思うから」
今までになく真剣な蔵之介に村田も圧倒され、口を閉じた。そして頷いた。
「分かった、連れて行こう。でもその前に話を聞かせてくれ。何があってここに戻ってきたのか」
村田が言うとゼノスは
「そんな事してる場合じゃありません!」
と言い放った。
「ビアンカ様は今も苦しんでて」
「ゼノス」
蔵之介がゼノスを呼ぶとゼノスは黙った。
「村田さんは俺を預かってくれて、いろいろ世話をしてくれたんだ。だから話そう」
「待て」
そこまで黙っていた海が口を開いた。
「俺は戻るのは反対だ。記憶を消したのはビアンカだ。あいつはお前を見捨てたんだ、戻る必要はない」
「うん、海にも聞いて欲しいんだ。俺が見たこと。海は誤解してるみたいだから」
冷静に話す蔵之介を見て海も少し驚いた。「誤解」その言葉のが意味するところが全く想像できない。海は考えしぶしぶ頷いた。
ゼノスはうつむき手をもじもじさせた。ビアンカが心配でたまらないのだろう。蔵之介も急ぎたい気持ちはあったが、村田さんへの感謝の気持ちもある。それにこんな前例のない事は何があったかも想像できないのだろう。蜘蛛の世界の事情を知っているなら話しても問題もないはずだ。
蔵之介は思い出しながら話し始めた。
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