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166話
「頬の傷がまだ治ってないな。これはどうやって受けた傷だ?」
ビアンカはそれを聞いて袖で涙をぬぐった。
「生贄をかけた戦いで、誰かに糸でつけられた傷だと思います」
ヴィンター師は「うーん」とのどを鳴らした。
「そうなると、中に糸が残っているのかもしれないな。よく調べずに治癒糸を張ったのか?」
ビアンカは言葉を返せず、顔を赤くした。
「すみません、戦っていて……」
「蔵之介を前にして浮かれてたか。それほど傷は深くはないだろう」
ヴィンター師はそう言うと左手で頬を撫で頬を探った。
「ここだな」
と場所を定め、右手で細い糸を堅くとがらせ、蔵之介の頬に刺した。
蔵之介は一瞬眉を寄せるが、すぐに表情は和らいだ。ヴィンター師が糸を引くと先に別の糸が絡み一緒に引き出された。
そして再び頬を確認する。
「これで大丈夫だろう。また治癒糸を張ってやりなさい」
ビアンカは蔵之介の頬に治癒糸を張った。その手は震えていた。
「ビアンカ、怯えるな。この世界で蔵之介を守ってやれるのはお前だけだ、自分で連れてきたんだろう最後まで面倒はみなさい」
「しかし」
ビアンカは戸惑ったように瞳を震わせた。
海はこんな顔もするのかとビアンカを見ていた。だからと言って許そうという気は毛頭ない。
「しかしも何もない、お前は努力して王になった。これからに何を望む?」
「蔵之介と共に居たいんです。しかし、僕は」
「自信がないか?王になれば何でもできるんじゃなかったのか?子供の頃からはしゃいでよく言ってただろう。お前なら何でもできる。そして王になった。望むことをしなさい」
ヴィンター師はそう言うと部屋のドアを開け出ていった。彼の言葉は明確にビアンカの心に刺さるものだった。それは優しくもあり、今のビアンカには鋭く突き刺すものでもあった。
海はどうしたものかと考え腰に手を当てた。しかし引っかかる点がありビアンカを睨みつけるように見た。
「なんとなく想像はしてたけど、蔵之介をお前が連れてきたってどういう事だ?」
海が聞いて返答を待つが、ビアンカは何も言わなかった。
「それは私が説明しましょう」
ピーが言って、ビアンカにはベッドに座っているよう促した。
ピーは海の方へ向き直る。
「海、貴方は蔵之介様の見張り役を依頼されてましたね」
「ああ、人間界に居たら知り合い伝で変な依頼が来て。いい値だったし、監視程度で良いならって依頼を受けた」
海が言って、ゼノスは驚いた顔をした。ゼノスは理解しきれず、二人を交互に見た。
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