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168話
「ビアンカ王は、最初は逃げるために蔵之介を言い訳に来たのかと思っていたそうですが思ったより蔵之介への気持ちが強いようで、嫉妬して私にあの指示を出しました」
「あの指示?」
海は首を傾げた。何があったのか全く思い出せなかった。
「思い出せないなら忘れてください。一応言っておきますがあれは私が好んでした事ではありませんから」
そういわれ海は目を見開いた。よぎったのは、捕まって王広間に連れていかれた時。ピーが手袋をはめ、海の服を脱がし……。思い返して海は頬を赤くした。
「スペルマウェブの!あれ!そういう事だったのかよ!?てっきり蔵之介が俺の絵かいてたのを羨ましくて妬いたのかと思って、心狭すぎるだろと思ってたよ」
海が言うとピーはため息をついた。
「多分それもですね。貴方がちゃかすから、ビアンカ王も調子に乗ったんでしょう」
ピーはそこまで言って海を見据えた。
「これでビアンカ様が蔵之介様を連れてきた理由は納得されましたか?」
「できるわけねーだろ。それをした理由を教えろよ」
海が言って、ピーは面倒くさそうにため息をついた。海はその姿に眉を寄せる。正直なところ考えればわかる。「好きだから」だろう。そうなった理由なんて知ったところで興味はあっても意味はない。
「あーいや、やっぱいい。今はそんな話をしてる場合じゃない」
海はそういって蔵之介の方へ歩み寄る。
「蔵之介は今起きてるのか?」
海が聞くと「起きている」とビアンカは呟くように言った。
「王がそんなにへこむなよ、こっちまで気がおかしくなりそうだ」
海が嘆くように言うが、ビアンカは蔵之介を見つめて何も言わなかった。
「ピー、今の王は役に立たない俺たちでどうするか考えよう」
「そうですね、治癒糸は巻いていますし、時間はかかっても元に戻る可能性もあります。今は心と体を休める必要があるでしょう」
海もそれ以外に方法は浮かばず頷いた。
蔵之介が寝ている間、ゼノスと海で分担し世話をした。
食事は与えられなかった為、治癒糸の効果で体をフォローするしかなかった。
しかし、日が経つにつれ徐々に蔵之介は回復することなく、体は衰弱していった。ビアンカも薬草を煎じ飲ませたり、蔵之介の負荷のない範囲で人間の食事を蜘蛛の糸で体内に流し込み蔵之介の体を保とうとした。
2週間たったが蔵之介は何の変化もなかった。
蔵之介の体はやせ細り、始めている。ビアンカはヴィンター師に相談し見つかるかも分からないが言い伝えで聞く薬草を煎じようと一緒に取りに出かけた。しかしそれも見つからず、ビアンカは打つ手がないといった様子で戻ってきた。
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