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170話
「殴らないんですか?」
ピーが聞き、海はビアンカを投げ捨てる。
「抵抗しない奴を殴る趣味はない」
「海、最後の仕事をお願いしたい」
ビアンカは力なく床に寝転がったまま言った。
「最後ってなんだよ」
「蔵之介を人間界の安全な場所に連れて行って欲しい。蔵之介が不幸にならない場所に」
海は頷く
「その仕事は高いぞ」
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そこまで説明し終わると、
「くらのすけさまぁぁぁ」
とゼノスは話を聞いて当時の事を思い出したのか、泣きながら蔵之介に抱き着いた。子供たちもつられて一緒に泣きだした。
「あーもううるせー!」
海が耳をふさぎながら叫んだ。
「近所迷惑だ!連れ出すぞ!」
と村田は子供を三人抱えた。
海も二人抱え、蔵之介は一人を抱きかかえ、ゼノスの背中を押した。蔵之介の背中には先ほどから子供が一人嬉しそうに引っ付いている。蔵之介を外で吊るして落とした子供だった。その子は離れようとしなかった為、蔵之介はその子の頭を撫でてそのまま連れて出た。
村田は山への道を車で進めた。子供たち何人かはぐずって居るが、蔵之介に抱きしめられ静かになっていた。
「それで、蔵之介はどうしてもどろうと思ったんだ?」
村田がバックミラーで蔵之介をちらっと見て問う。
「俺その時の会話聞いてたんです。でも体が動かなくて神経が全部切られている感覚でした。何度もビアンカを呼ぼうとしたのに声が出なくて。記憶もけさないでって言おうとしても声に出せなくて」
「つまりは最初から残りたかったって事か。なんでそんな植物状態みたいな事が起きたんだ?」
「それは」
蔵之介が言おうとすると、子供の一人が顔を上げた。
「ママおしっこ」
「え」
と蔵之介は言って周りを見る。そこは既に山の中だ。
「ママ、僕も」
「ママ俺も」
と他の子供たちもつられるように騒ぎ出す。
「あーあー、分かった。車を止めるからその辺でして来い」
村田は山道の途中だが車を止めた。
蔵之介はドアを開け、子供たちを車の外へ連れ出した。子供たちは道の隅でそれぞれ着ているものを脱いで用を足した。
全員面倒見ないといけないかと思っていた蔵之介は安心してため息をついた。
「ママ―終わった!」
「出たよ!!」
「一人でできた!!」
子供たちがわらわらと蔵之介を取り囲む。
「うん、偉いね。よくできてた」
蔵之介は一人ひとり頭を撫でた。7人目の頭をなで終わり車を見る。車の脇に立ち見守っていたゼノスが何かと瞬きする。
「ゼノス、子供って9人産まれなかったっけ?」
「あの、それは……」
ゼノスは車の横で立ったままうつむき、もじもじと手をこすり合わせた。
「あのね、居なくなっちゃったの」
「どこか行っちゃったの」
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