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171話

「迷子になっちゃたのかも」  子供たちが言った。 「居なくなった?」 「良いから乗れ、進むぞ」  村田に言われ子供たちと一緒に蔵之介は車に乗り込んだ。  いろいろ、聞きたいことがあり、どれから話せばいいのか蔵之介が悩んでいると、村田が口を開いた。 「まあ、お前が戻りたい理由がはっきり自分の意思ならそれ以上は聞かない。それなら後悔もないだろう」 村田は山道のカーブを曲がった。そこで海が「あ」と声を漏らした。 「どうしたの?」  と蔵之介が聞く。 「バナナ買ってくればよかった」  海は呟き窓を開けた。 「え、今それ必要?」 「ちょっと買ってくる。上につくころまでには戻る」 と窓から出て海は飛んで山を降りていった。 「フットワーク軽いな」 蔵之介は呟く 「僕も行く」 後に続こうとする子供を蔵之介は抱きとめ窓を閉めた。 「行っちゃダメ」 蔵之介が言うと子供はムスッとする。 「なんで!?」  強く言われ蔵之介は困り、その場の思い付きで言う。 「お母さんを一人にしないでほしいんだ。海が居ないと他に頼れる人居ないでしょ?」 蔵之介は苦し紛れのように言うが、子供たちはその気になって目を輝かせた。 「大丈夫!僕がママを守るよ!」 「僕も守る!」 「俺が一番強いんだよ」 「お前はこの前じゃんけんに負けてたじゃん」 「じゃんけんと守るのは違うもん!」 すぐに取っ組み合いが始まり、蔵之介は中断させようとするが、顔をはたかれお腹を蹴られ泣きそうになった。  子供ってこんなに元気なものなの?蔵之介は涙目で子供たちを見ていた。 「お前ら静かにしないからお母さんが困ってるぞ」 村田がい言うが、子供たちは楽しそうにじゃれ合っていた。  以前来た山の入り口につくと車を降りた。 「自分の意思で歩けよ」  前にも言われた言葉だった。村田にとって座右の銘か何かなのかもしれない。  蜘蛛の世界から外にでるにはそれなりの覚悟が必要だったのだろう。  蔵之介は頷いた。 「分かってます。ありがとうございました」  蔵之介は村田に頭を下げる。  そこで村田の携帯が鳴った。村田がその電話に出ると驚いた様子で声を上げた。 「なんだ?……海?なんでこの番号を……は?」  村田はそこまでいうと急いで車に走った。 「あとは自分で戻れ、海は多分すぐには向かえない。置いて行っていい」 「え?何が」  蔵之介の言葉を聞かず、村田は車で走り去っていった。  なんの余韻もないあわただしい別れに蔵之介は肩を落とした。海のことは心配ではあるが、ビアンカの方も早く助けに行きたい。 「ゼノス、いこう」  蔵之介が言うとゼノスは頷いた。

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