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173話
ゼノスは蜘蛛の糸を操り蔵之介の服を作り始める。
想定通り時間がかかりそうなので蔵之介は木の脇に座った。子供たちは暇そうに近くをうろうろしていた。
蔵之介はマフラーを口元まで上げて目を閉じた。
他に思い出せることはないか、記憶が戻らないを確認した。何も思い出せない事がわかり目を開く。
「記憶のことの前に、ビアンカは俺の為にずっと治癒糸を巻いてくれてたよね。だけど、それに効果がなかった。それには理由があって、俺の部屋には一匹の蜘蛛が潜んでいた」
蔵之介が言うとゼノスが驚いて顔を上げる。子供たちは蔵之介が話し始めたので周りを囲み聞こうと座った。
「その蜘蛛は人の姿になるとビアンカと同じ姿をしていた。それは前に現れたワイトだと思う。
ワイトが俺につけられた治癒糸をほどいて普通の糸に巻き直したんだ。それで俺は回復できなかったんだ。彼は俺を殺そうとしてたんだ。ただ殺すならすぐにできたはずなのに、俺が苦しむように、ビアンカも苦しむように。その方法を取ったんだ。何度も「もっと苦しめ」って言われた。
何も言い返せなくて苦しかったよ。ゼノスにも、海にも言えなくて。
そして、俺が動けなかった理由も別にあって。子供を産んだ後、俺は衰弱していた。体力も消耗して精神的にも削られて意識を保っているのがやっとだった。
そして、ビアンカも許可して医者に体を見て貰ったんだ。その時、足首に糸を刺されたんだ。それを打たれた後、意識がはっきりした。けどそれ以降動くことも喋ることも出来なくなったんだ。
ビアンカにそれを伝えたくて声を出そうとしたけど出来なかった。心音で伝えられないかも試したけど、心音も制御されているのか伝えることは出来なかった」
蔵之介がそこまで言うと一度口を閉じた。
「つまり医者はワイトの手下だったってことですか?」
ゼノスは服を編みながら蔵之介に聞いた。
「それは分からない。他にも俺を狙う人はいる。だから別の人の指示かもしれない。
そしてその後、ビアンカは俺の為に薬草を探しに出たんだ。その隙を狙いワイトは薬草が見つからず戻ってきたふりをした。ビアンカになり切って感傷的に話しながら、俺の記憶を消したんだ。その後の記憶は人間の世界に戻って目が覚めた所からしか記憶がない」
「じ、じゃあ、今ビアンカ様が罰を受けてるのは」
「うん、ワイトのせいだと思う。俺が人間の世界に戻ったことで罰を受けてるのだとしたら、ワイトは俺を殺すよりその方がビアンカを苦しめられると思ったのかもしれない。
早く助けたい。けど俺には戦うことはできない。海が追いついてくれるといいけど他に頼れる人もいないし」
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