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180話

「あと、蔵之介様。走りながらで申し訳ないのですが、私の懐に小さな巾着が入っております。お取りいただけますか?」  蔵之介は何かとキーパーの懐に手を入れた。中からめぼしいものを取り出すと赤い、お守りサイズ程度の小さな巾着だった。それに長く紐がついている 「これ?」 「はい、それにはビアンカ様が蔵之介様の為に取ってきた薬草が入っております。蔵之介様が居なくなり、ヴィンター師が乾燥させ長持ちできるように致しました。煎じて飲めば何にでも効く薬です。その巾着はビアンカ様が用意し染めたものです。首からかけて所持して頂ければ、蔵之介様に何かあった際、気付いた者が使用できます」 「分かった。何かあったら使うよ」  蔵之介は首に紐をかけ、巾着部分は襟の中に収めた。 「ここに居たのか。蔵之介」  ビアンカが目の前に降りてきた。しかし、それはもう別人だということを隠そうとせず、姿はそのままでもビアンカの表情をしてなかった。  キーパーは慌てて立ち止まり、地面に砂煙を立てた。  見てよ、この弱い男を。そういうと、本物のビアンカが目の前に転がって落ちた。 「び、ビアンカ……」  蔵之介はキーパーを突き放して、地面に飛び降り倒れるビアンカに駆け寄った。 「ビアンカ!」  体に触れ声をかけるが反応は無かった。  蔵之介は瞳を震わせた。首に巻いていたマフラーを急いで外し、ビアンカの首に巻きつけ、頭を抱きしめた 「ビアンカ……起きて……」  蔵之介は声を振るわせた。しかし、ビアンカはピクリとも動かず力尽きたように蔵之介に体重を預けていた。 「ビアンカは強い方だろ。ビアンカが負けるわけない。つまりは僕がビアンカなんだよ」  ワイトが蔵之介の腕を掴もうとすると、キーパーがそれを蹴りを入れた。しかし、それを片手で受け止め投げ飛ばした。 「もう、弱いんだからかかってこないでくれる?」  ワイトはそういって、蔵之介の腕を掴んだ。 「やめて!離して!」  蔵之介は体を引っ張られ、蔵之介の膝に乗せていたビアンカの頭が地面に落ちた。 「何が目的なの!?」 「目的?そんなものはない。あの男が苦しめばそれでいい」  ワイトは蔵之介を抱え走り出した。  キーパーが立て直し後を追おうとするが、膝から崩れた。 「すみません、ビアンカ様」  先ほど捕まれた足はねじられ、真逆の方向に向いていた。  しかし、倒れていたビアンカは静かに動き出し身を起こした。呼吸は浅く短く繰り返されていた。  ビアンカは自分の胸元に手を当てると一気に治癒糸を放出し、自分の体へと血管の様に糸を張り巡らせた。 「足止めよくやった」

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