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181話
ビアンカはそう言って、マフラーを顔に寄せる。蔵之介の香りとぬくもりが残っているのを感じ、ひと息つくとすぐにワイトの後を追い走り出した。
ビアンカは走りながらワイトの足音を聞き逃さず後を追い続けた。姿はまだ見えないが分かる距離だった。
随分奇妙な走り方をしている。こちらを惑わそうとしているのか?ビアンカは考えながら走っていたが、何かを思い出し足を止めた。
「磁気転門のある方向か」
ビアンカは目的の場所へ向かいまっすぐ走り出した。
「気付いたか」
ワイトもビアンカの足音で走る方向が特定されたのに気付き、同じ方向へまっすぐ加速し走り出した。
蔵之介はワイトに口をふさがれ、手と足も拘束されて抵抗できずにいた。
声を出せればビアンカに場所を伝えられるのに。そのもどかしさに蔵之介は目を潤ませた。
戦うことが出来なくてもやれることはしたかった。
そう思っていると横から何かが勢いよく飛んできてワイトの体に当たった。
それが連続で何度か当たり、ワイトは蔵之介を手放し蔵之介は地面に落ちそうになるが、体を引かれ地面すれすれで止まる。よく見ると背中に糸がついていて吊るされていた。そしてゆっくり降ろされた。
「ママ!なんで寝てる間に勝手にいなくなっちゃうの!」
「寂しかった!!!」
子供が二人、拘束され起き上がれずにいる蔵之介の体に突っ伏して泣きだした。
「ママを誘拐したのはお前か!」
子供の一人がワイトと対峙する。勢いよく飛んできてワイトの体に当たったのは子供の体だった。他の体当たりした子供達も起き上がり、ワイトの方を見た。
ワイトが顔を上げるとフっと笑い起き上がる。子供たちは驚いて、顔を見合わせた。
「パパ?」
「パパに当たっちゃった」
「どうしよう……」
子供たちは怯えて、蔵之介の元へ駆け寄った。
「ごめん、これ解いてくれる?」
と蔵之介は手と足を持ち上げた。口の糸は自力で剥がせたが、どうやっても手足の拘束が取れなかった。アウルムが蔵之介の足の糸をほどき、オールが手の糸をほどいた。
蔵之介は起き上がると、オールとアウルムの頭を撫でた。
「ありがとう」
そういって子供たちをワイトから隠す様に背中側に回した。
「パパに手を出したらどうなるか覚えてるよね?」
ワイトが言うと子供たちはびくりと体を震わせ目を潤ませた。
「ごめんなさい」
「ママがさらわれたと思ったの!」
「ぶたないで」
子供たちは蔵之介の後ろにかくれ服を掴んだ。
子供たちはワイトが父親だと信じている。子供達まで騙して苦しめ、ビアンカを陥れようとしていたのかと思うと蔵之介は怒りが沸いた。
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