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183話
子供たちは何が起きたのか分からず、ただ見ていることしか出来ずきょろきょろしていた。
「待て!ワイト!」
ビアンカは後を追い走り出した。
子供の一人がビアンカが追っていったのを見送り、まだ少し残った糸の中に戻った。
「どうしよう」
「あの人がパパなら、バリアを張ってって言ったのはパパだよ」
「じゃあ、張っておく?」
「でもママ連れ去られちゃったよ。助けに行かないと」
「パパが向かったから大丈夫だよ」
「でもパパ怪我してたよ」
「じゃあパパを助けないと」
子供たちは頷き合い後を追った。
ワイトの進む先に何かゆがんだ光が見える。それは青白く輝いている。周りには蜘蛛の糸が連なり六角形をしていた。その真ん中に光の根源がある。
「なにあれ」
蔵之介がつぶやく。
「転門だ。毎秒ごとに行き先が変わる。どこに出るかも分からない。お前とビアンカを引き裂くには丁度いい」
ワイトが笑って加速し、数メートル前で立ち止まり、蔵之介を転門へと放り投げた。
「うわあ!!」
加速の勢いで蔵之介の体が宙を舞い、門へと吸い込まれていく。
「蔵之介!!」
ビアンカは瞬時に糸を伸ばし、蔵之介をとらえようとするが、ワイトが糸の膜を張りその糸を止めた。
「ビアンカ!!!」
蔵之介は叫びながら転門の中へと消えた。ビアンカは歯を食いしばり拳を握りしめた。
「ワイト!!!!」
ビアンカは拳を振り上げ叫びワイトにとびかかる。
「俺もここまで。またな」
と笑って転門の中へと消えていった。
ビアンカは門の前で立ち止まり、しばらく息を切らしていた。そして崩れるように膝をついた。
「蔵之介……また、やられた」
ビアンカは拳を地面に叩きつけると地面がえぐれた。
ビアンカはふらりと立ち上がる。しかし、足元はしっかりしていた。
「ビアンカ様」
後から着ていたピーが追いつきビアンカの近くに降りた。
「蔵之介様は?」
「連れていかれた。門が繋がれる領域はここの他に6個所ある。しかし、その一か所が特定できたとしても、どこに出るかは不明だ。運が良ければここに戻ってくることもあるが、場合によっては行きついた先が危険な場所でその場で命を落とすこともある」
ビアンカは目を閉じ息を吐き出した。
「行ってくる。何度繰り返しても駆らなず蔵之介を連れ戻す」
ビアンカは蔵之介を求め歩き出す。しかし、ピーが腕を掴みとめた。
「待ってください。ヴィンター師に相談してからにしましょう。もしかしたら行き場所が特定できるかもしれません。そんな命がけの場所に何度も飛び込むなんて無謀です」
ピーが言って、ビアンカは首を横に振った。
「そんな事気にしていられない」
ビアンカがそう言い終わる前に、ピーが首に何かを刺した。
それと同時にビアンカは力なくその場に倒れ、それをピーが受け止めた。
「無理をしすぎです。せめて一日お休みになってください」
刺したのは尖らせた糸だった。刺した場所は神経を刺激し、動けなくさせる効果があった。さらに刺した糸には睡眠効果のある薬が塗られていた。
ビアンカは動けず、数秒後そのまま眠りに落ちた。
ピーはビアンカを抱え上げ、走りだした。
ゲートは音もたてず光を放ち、その場は静まり返った。
二章完
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