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第25話

「待って、待って。勘違いさせてるから」 慌てて、小林が仲介に入る。 「言葉が抜けてる」 「言葉?」 マフィが小林、類を見て、首を傾げた。 「マフィが光にお世話になったのは将棋の相手だろう?」 2人のやり取りに晶は目を丸くした。 「....将棋」 「ごめんね、晶。マフィ、将棋が好きでね。僕はちんぷんかんぷんで。光は昔、遊んだ事があるから、て、日本にマフィが来たときは将棋の相手をたまにしてるんだ」 「そ、そう、なんですか....すみません、空気、悪くして....」 頬を押さえたまま、固まっている光にも、晶は謝った。 「ごめん、光....痛かったでしょ?」 「う、うん、びっくりした」 光の手をどかすと赤く腫れている。 「あー、冷やした方がいいかもしれないな。氷を持ってくるよ」 類はキッチンの冷凍庫から氷をビニールに入れ、タオルで巻くと光の腫れた頬に押し当てた。 「ありがとうございます、店長」 光は礼を言うと自分の手で頬を冷やした。 「本当にごめんね、光。それに本当にすみません」 晶は頭を下げた。 「気にしなくていいよ。光はとばっちりだったけど、マフィが言葉足らずだったのがいけないんだから。でも....アレは話していた方がいいのかな」 語尾になると、類は顎に指を置き、宙を仰いだ。 「晶、どうやら、相当、ヤキモチ焼きみたいだし」 「餅?餅を焼くの?晶」 マフィが類に尋ね、 「そういう意味じゃないよ。ジェラシーが強い、て意味」 「ああ、なるほど」 マフィがワイングラスを傾けた。 なんの話しだろう、と晶は言葉を待った。 「怒らないで聞いてくれるかな?」 前もって、類は晶に告げ、晶は、はい、と小さく答えた。 「光が男運がなくて、いつも相手には本命がいて別れて、て感じだったからね。マフィが光に友人を紹介した事があるんだ」 「光に、ですか?日本人...ですか?」 「ううん。マフィと同じ、イタリア人。光の4つ上」 晶は怒りより、ただ驚いた。 光はイタリア人と付き合っていたのか、と。 「....光、イタリア語、話せるの?」 「まさか。マフィも日本語、流暢だし。日本語が出来るイタリア人だよ」 片手で頬を冷やしつつ、類の作った料理を食べながら、光が答えた。 「....イタリア人と付き合う、て、どんな感じ?」 光は、うーん、と唸り、 「あんまり思い出したくないけど」 と切り出した。 「とにかく優しくて...」 「晶もはい」 類に白ワインの入ったワイングラスを渡され、ありがとうございます、と、受け取り、口をつけた。 「優しくて?」 「とにかく優しい。それくらい?」 「....それだけ?」 「うん」 「イケメンだった?エッチはどうだった?」 「イケメンだったよ。エッチは....て、聞いてどうするの」 「いや、どんな感じなんだろう、て」 「なんなら試してみる?」 類が笑いながら、晶に話しかけた。 「いや!僕はいいです!」 「晶にはもう俺がいるんだから、変なこと言わないでくださいよ、店長」 光が不貞腐れ、類を睨みつける。 「悪い、冗談だよ。で?晶は知りたがってるみたいだから、ちゃんと答えてあげないと」 心なしか、ワイングラスを片手に類は笑みを浮かべ、2人の様子を楽しんでいるようだ。 「どうだった?光」 「どう、て....。最初は緊張したけど、後は慣れ」 「....それだけ?ベッドでも優しかったりとかあるの?」 あー、と、思い返すように光は天井を見上げる。 「それはあったかも。常に優しい、いや、優しかった、かな」 「でも、どうして別れたの?」 光が言葉に詰まる。 「申し訳なかったね、光。僕も知らなかったから」 マフィが代弁するように割って入った。 「なにかあったんですか?」 「僕は別れた、て聞いてたんだけど、リアンにはフランス人の彼氏がいたんだよ」 思わず、晶は光を見た。 「....本命がいた、てこと?」 「そうなる。ちょくちょく、フランスに行くし、フランスが好きだから、て。俺は連れていっては来れなくて。まさか、と思ったけど」 「でも、光がもっと、積極的にリアンにグイグイ行けば、案外、リアンは光を本命にしたかもしれないけどね。光の写メを見せたら、可愛い、紹介して欲しい、て凄かった」 マフィがフォローなのか本音なのか光に言うが、光は拗ねたように口を尖らせた。 「浮気するようなやつはごめんだよ」 晶は一安心したが、一時期、イタリア人と交際していた光を凄いな、と何故か感心を覚えた。

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